大安寺組のトップの座以外に、欲しいものなんてなかった。
でも今は、目の前のこいつを振り向かせたいと思っている。
美桜は分かっていないようだが、俺から逃げようとすればするほど、追いかけたくなるのが俺の性格だ。
「逃げんな。黙って俺に落ちろよ」
「ぎゃー!!」
「おい、待て走んな!」
俺には恋だとか、愛だとか、未だにそんなモンはよく分からない。
でもきっと、俺が美桜にむけているこの気持ちは……世間でいうところの〝好き〟ってヤツなんだろう。
これまでずっと不要な感情だとばかり思っていた。
でも案外、こういうのも悪くない。
美桜を見ていると、そう思った──。



