そのとき、俺は幼いながらに思った。
「(自分以外に大切なやつを作るから、それを失ったときに悲しくなるんだ)」と。
だったら、最初から大切な何かを作らなければいいだけのことだ。
俺は絶対に親父のように結婚なんてしないし、大切な人も作らない。
俺は自分だけを大切にして、どこまでも強くなる。
そして親父のように、この大安寺組の若頭になって、将来は必ず組長の座に登ってみせる。
そう、思っていた。
実際に俺は、親父のようにケンカ負けなしの記録を更新し続けていった。
時には周りから『やりすぎだ』と言われることもあったが、それでも強い自分に誇りさえ持っていた。
そんなある日、大安寺組全体に衝撃の走る出来事が起こった。
俺と伊織が小学五年のときのことだった。
「──組長の孫が、誘拐された!?」
親父から聞いた話に、耳を疑った。
誘拐されたのは、大安寺組の組長、大安寺 大地の孫娘である、大安寺 美桜という名前の女らしい。
俺達の一つ年下だそうだ。



