俺の親父は、すげぇやつだ。
小さいころから、あの巨大な組織である『大安寺組』の若頭として、大安寺のジィさんの次に偉い立場に這い上がったのが親父だった。
喧嘩は負けナシ、親父の言うことは誰もが聞き、尊敬し、慕っている。
そんな強い親父が、ガキのころから俺の自慢だった。
だが、そんな親父でも一瞬だけ弱くなるときがあった。
その原因は、母さんだった。
俺の母さんは元々体が弱かった。
俺の記憶の中の母さんは、はほとんどの時間を病院で過ごしていた。
親父はどれだけ仕事が忙しくても、必ず毎日母さんのお見舞いを欠かさなかった。
普段から外では見せないような笑顔を、母さんの前だけではなんの躊躇いもなく見せていた。
口数の少ない親父が、楽しそうに会話をしていたことを今でも鮮明に覚えている。
親父は昔から、口が酸っぱくなるくらい俺に言っていたことがある。
『女性を傷つけるな、怖がらせるな、心配させるな』
『他人の前で涙を流すな』
『大和が大切だと思った人が現れたとき、そのひとを全力で守れるよう強くなれ』



