昔、大安寺の家族に注意されたことがある。
『お嬢、自分のことを〝なんか〟って言っちゃあいけねぇ』
『お嬢は俺達の特別な姫さんだ。もっと自信を持つべきだ』って。
でも、どうやって自信を持てばいいの?
大安寺家の中では特別なのかもしれないけど、一歩外へ出たら、私はただの大安寺 美桜だ。
なのに、名前だとか、ウワサだとか、そんなものばかりが勝手に〝私〟っていう存在を決めつけていくんだ。
誰も本当の私を見てくれようとしない。
教室に戻りながら、そんなどうしようもないことを考えて、また心が落ち込んだ。
ポロポロとあふれ出てくる涙を、制服の袖で雑に拭いとった。
「──美桜ちゃん、泣いてる?」



