はじめてちゃんと、稲瀬の顔を見た気がする。
もう何度も顔を合わせているはずなのに、なんで今さら?
「(……そっか。今までは私と稲瀬の間には、必ず伊織と大和、それから陽太がいたからだ)」
いつも私を守るように、目の前に立ってくれていたからだ。
どれだけ伊織達のことで傷ついていても、私はやっぱりあの三人のことばかり考えてしまう。
──それくらい、きっと私の中では大切な人になっているんだ。
三人のせいでこんなにも悲しい思いをしているのに、それでも伊織達のことをすぐに嫌いにはなれない。
「(このまま逃げてたら、ダメだ)」
ちゃんと話し合わなくちゃ。
「稲瀬、私──……」
「──美桜ちゃん!」
「美桜!」
「美桜ちゃーん!」
向かい合った稲瀬に声をかけようとしたとき、世界で一番安心できる三人の声が響き渡った。
遠くの方から、伊織と大和、それから陽太が走って駆けつけてくれる。
そういえば、三人と初めて顔を合わせたときも、こんなふうに走ってきてくれたっけ。



