「勘違いしないでよ。美桜ちゃんのほうから来たくせに」
「はぁ!?いつ私がアンタのところに来たって言うのよ!」
「だってそこ、俺の家だよ?」
「えぇ!?ここ、旅館じゃなくてアンタの家なの!?」
大きくて豪華な旅館だと思っていたこの建物が、まさか稲瀬の家!?
やばいよ、稲瀬の家ってことは、ここは……大安寺組の敵組織、稲瀬組の本家ってこと!?
「どうしたの、こんな夜中に一人で」
オロオロしている私に、稲瀬はスッと一本のジュースを差し出してくれた。
「……毒?」
「君、失礼にも程があるね。どう見たってコンビニで買ったりんごジュースなんだけど」
「な、なんで私に……」
「君がすごく可哀想な顔をしているから。一本あげるよ」
稲瀬は私にそれを渡すと、同じようにとなりに座ってこちらを見た。
「コンビニでお菓子とジュースでも買って、映画の続きでも見ようかと思ってたら、まさか美桜ちゃんが我が家の玄関にいるとは思わなかったわ」
「わ、私だってここが稲瀬の家だなんて知らなかったんだもん」
「……何かあった?」



