ずっと、不思議だったんだ。
いきなり婚約者候補としてあの三人が現れて、『俺と結婚しろ』『俺を選べ』だなんて言ってきたことが。
きっと、私と結婚したら、お金だとか、土地だとか宝石だとか、そんなものをもらえるんじゃないかと思っていた。
「おっと、もうこんな時間だ。そろそろ帰らないと、君の護衛……じゃなかった婚約者候補たちが心配するんじゃない?」
でも、違った。
伊織も、大和も、陽太も、大安寺組の若頭になりたくて、私に結婚を申し出たんだ。
私を守ると言ったのも、私とずっと一緒にいたいと言ってくれた言葉も、もっと頼っておいでと優しく言ってくれたあの言葉も、全部ぜんぶ、自分が若頭になりたいから──?
「そんなわけ、ない……よね?」
そう思おうとしても、私のそんな言葉を覆すように、稲瀬の言葉が蘇ってくる。
私に近づいたのも、守ると言ってくれたのも、全部……若頭ってものになりたい、から?
「最後に一つ、聞いてもいい?」
「……なによ」
「俺達が最初に会ったとき。俺、なんて言ったか覚えてる?」
「……」
「〝君は必ずおれの元に来る〟って、そう言ったんだよ」
「!?」
「その言葉、覚えておいてね」
「……」
「じゃ、またね」



