そのとき、私の耳に届いた一人の男子の声。
……聞き覚えのある声だった。
「アンタは……稲瀬 玲央!」
「覚えていてくれたみたいで何より」
「な、何の用なの!?なんでここにいるわけ!?」
「そう威嚇しないでよ。たまたまここを通りかかったら、君が何か悩んでいるようだったから声をかけただけだよ」
「は、はぁ!?別に、何も悩んでなんかないし!」
「よかったら話、聞いてあげよっか?」
「何言ってんのよ!誰がアンタなんかに……!」
「でもあの三人には話せないことなんじゃない?だから〝あの〟大安寺のお姫様が一人でこんなところにいるんだろ?」
「……っ!」
私を見つめてくる稲瀬のその目は、初めて出会ったときからずっと苦手だ。
何もかもを見透かされているみたいで、居心地が悪くなる。
「ねぇ。あの三人は、美桜ちゃんの護衛……だけじゃないよね?」
「え?」
「護衛以外にも、何か役割があるんじゃない?たとえば……君の将来の花婿の候補、とかさ?」
「な、なんでそれを……!?」
一瞬にして、胸がざわめいた。
「アッハハ!やっぱりね」
私に三人の婚約者候補がいるということは、大安寺家の人しか知らないはずだ。
私は誰にも言っていないし、伊織達だって大安寺家のことを他人に話すようなことは絶対にしない。



