結婚なんて、ゼッタイお断り!






伊織はいつも自分の気持ちを表に出さない。

私のことを一番にしてくれるのは嬉しいけど、それってどこか線を引かれているみたいで寂しく感じるときもあるから。




「じゃあ俺、今から一つだけわがまま言うね?」

「うん、いいよ!」



伊織が私に向かい合ってそう言った。

なんでも言っていいよ!

伊織がこれまで出してこなかった欲を、私が受け止めてあげようじゃない!








「──美桜ちゃんとの結婚を望まないって言ったこと、あれ、撤回するよ」

「……へ?」




だけど、伊織のわがままは、私の予想の遥か斜め上をいくものだった。

伊織の〝はじめてのわがまま〟を聞いた途端、私はピタリと体の動きが止まってしまった。




「今日から俺も、君の婚約者候補として美桜ちゃんとの結婚を望むことにする」

「な、なな!?」

「……困る?」

「こ、ここ、困る!それは超困る!」

「……困るよね。でも、わがまま言っていいって言ったの、君だから」





伊織は両手で私の顔をすくいあげるように包み込んで、おでことおでこをくっつけた。

そして、私をそっとやさしく抱きしめる。





「ちょっと!?い、伊織!?ここ、まだ遊園地の中……」

「いつまでも美桜ちゃんのとなりにいられるように、俺ももっと頑張るから」

「は、離れてよ伊織ってば!」

「──もう、離さないよ」

「いろんな人が見てるでしょ!伊織のバカ!」




……私、もしかしたら伊織の押してはいけないスイッチを押してしまったかもしれない。