「……え?」
これまで失っていたはずの感覚や感情が、一気に溢れ出てくるのが分かった。
両頬に感じる、美桜ちゃんの手のぬくもり。
彼女の笑顔に、安らいでいく心。
それまで霧がかかっていた視界が、一瞬にして晴れた気分だった。
「オニーチャン寒そうだから、美桜のカイロあげるね!」
そう言って、ポンッと頭の上にカイロを乗せてくれた美桜ちゃん。
俺はそのとき、なぜだか大量の涙が頬を伝った。
美桜ちゃんを困らせてしまうと分かっていても、それでも涙が止まらなかった。
「よしよし。もう寒くないでしょ?だから泣かないの!」
「……っ」
「泣く子は弱い子なんだって!美桜のおじいちゃんが言ってた!」
「……うん。もう泣かない。ありがとうね」
君はきっと、あのときのことは覚えていないでしょ?
でも、それでいい。
あの思い出は、俺だけの宝物だから──。



