『美桜には友達がいない。本当は伊織には友達として接してもらいたかったんじゃがな。でも、甘やかすわけにはいかない。あの子も大安寺組の人間。強く生きてもらわねばならんのだ』
そして、俺は小学校二年のときからずっと、学校の中や大安寺家の外で、そっと彼女のことを遠くから見守る日々が続いた。
「──ねぇ、そんなところで何やってるの?」
そんなある日、美桜ちゃんが俺に話かけてきたんだ。
彼女が公園で一人で遊んでいる、その場所から離れたところでいつものように見守っていた。
美桜ちゃんには俺の他に、ちゃんとした大人の護衛が二人ついている。
俺が護衛の見習いとして、その仕事の様子を見ていたときだった。
ほんの一瞬だけ目を離した隙に、いつの間にか美桜ちゃんは俺の目の前にやってきた。
「な、あ、えっと……っ」
「ねぇ、どうしてオニーチャンは頭に雪を乗せてるの?寒くないの?白髪みたいになってるよ?」
──まずい、接近するなと言われていたのに。
「ほっぺたも真っ赤になってるよ?風邪、引いちゃうよ?」
──この子が中学に上がるまで、顔を合わせてはいけない命令だったのに。
「美桜が雪、とってあげるね!」
焦る俺とは正反対に、ニコニコと笑いながら頭の上に積もっていた雪を払ってくれた美桜ちゃん。
そして、小さな手のひらで、俺の冷たい頬を優しく包み込んでくれた瞬間だった。



