「わたしね、前の世界では、浅羽くんとはほとんど話したこともなかったんだ。だから浅羽くんが亡くなったって聞いた時、すごく悲しくて、胸がズキズキ痛んで……すごく後悔したし、ずっと泣いてばかりいたの。だけど過去に戻ってきて、浅羽くんと仲良くなれて……うれしかった。毎日すごく楽しかったんだ」
「そんなの……俺だって、そうだよ」
「うん。だからね、このまま、浅羽くんと出会えて仲良くなれて、幸せなわたしのまま……消えちゃうのも悪くないのかなって」
そう話す音無さんの身体が、少しずつ薄くなっている気がする。
「っ、何で俺なんかのために、わざわざ過去に戻ってまで……」
「言ったでしょ? わたしの夢は、大好きな人を、幸せにすることだ、って」
「それじゃあ意味ないだろ。音無さんがいてくれなきゃ、俺は、幸せになんてなれない……‼」
「……ううん、だいじょうぶだよ。だって浅羽くん、お母さんとちゃんと話せたんでしょ? それに、藤野せんぱいだっている。みんな、浅羽くんのことを大切に思ってるんだよ」
穏やかな顔で笑いながら話している音無さんの体が、少しずつ、少しずつ消えていくのが分かる。



