「……音無さんって、変だよね」
「え!? わたしって、変なんですか……!?」
「うん。すっごく」
今度はガーンッ! とショックをうけたような顔をして、落ち込み始める。
表情がころころ変わる様は、見ていてあきないなって思う。
――やっぱり、変なのは俺の方かもしれない。
音無さんと出会って、まだたったの一週間。
一緒に過ごした時間は短いし、お互い、まだ知らないことばかりなはずだけど……彼女と過ごすこの時間を、楽しいと思い始めているなんて。
「……ほら、早く行くよ。俺は遅刻してもかまわないけど、音無さんは授業に遅れたら困るんじゃないの?」
「えっ、もうこんな時間!? 浅羽くん、早く行きましょう!」
スマホの時計を見て目を見開いた音無さんは、俺の腕をつかんで走り出す。
多分、普段の俺なら、その手をはらいのけていたと思う。
だけど――音無さんに触れられても、嫌な気はしなかったから。
大人しく、彼女の後を追いかけることにした。
前を走る彼女の黒い髪は、きらきら、きらきらと、春の匂いをまとった風になびいていた。



