「とりあえず、今日は俺も病院に泊まるから。病室に戻るよ」
「……うん。心配かけちゃってごめんね、蒼空」
「……別に」
「それと、来てくれてありがとう」
気持ちが落ち着いたらしい母さんは、俺を見て、うれしそうに笑っている。
「……ごめん」
「え?」
「過労で倒れたって聞いた。仕事、無理してたんだろ」
「ふふ、全然無理なんてしてないよ。でも、そうだね……蒼空が心配してきてくれるなら、たまにはこうやって倒れてみるのも悪くないかも?」
「こんな時に冗談言うなよ……」
「ごめんごめん」
呆れた顔を向ければ、母さんはクスクスと楽しそうな笑い声をもらす。
母さんのその表情が、声が、ひどく温かくて……何だか、そわそわと落ち着かない気持ちになってしまった。
そもそも、母さんとこんな風に目を見て話すのは、久しぶりのことかもしれない。
俺はそれ以上言葉を返すことはしなかったけど――母さんの手はしっかりと握りしめたまま、病室を目指して歩いた。



