「……分かったよ。今から病院に行く」
「っ、うん」
音無さんの気迫に負けた俺が渋々うなずけば、音無さんは安心した表情で笑った。
張りつめていた空気が解けていく感じがする。
「浅羽くん、道中気をつけてね。病院には真っ直ぐに向かうこと。それに、知らない人について行くのもだめだよ? 寄り道もしちゃだめだからね?」
「ふっ、わかってるよ」
真面目な顔をした音無さんが母親みたいなことを言うものだから、さっきまでの気まずさも忘れて笑ってしまった。
そんな俺の顔を見た音無さんは、何かまぶしいものでも見るかのように目を細めて笑いながら、
「浅羽くん、大好きだよ。――ばいばい」
と、手を振って行ってしまう。
「っ、音無さん!」
遠ざかって行く背中に呼びかければ、足を止めた音無さんが振り向いた。
「さっき言ってたこと。今度ちゃんと説明してくれるって話、忘れんなよ」
「……うん。分かった」
「あと、その浴衣。……似合ってる。じゃあね」
次に会う約束をして、言いたかったことを一方的に伝えた俺は、音無さんに言われた通り、真っ直ぐ病院に向かった。



