(……しかたない)
俺は玄関に向けていた足を方向転換した。
そして、長い黒髪をゆらしながら歩いている彼女の名前をよぶ。
「音無さん」
声をかければ、驚いたのか、音無さんの華奢な身体がビクリとはねあがった。
「浅羽くん! まだ帰ってなかったんだね」
俺に気づいた音無さんは、うれしそうな顔をして足を止める。
――いや、自分でうれしそうとか言うのも変かもしれないけど。
でも音無さんからは、そういった感情がいつだってまっすぐに伝わってくるんだ。
その表情は、いつだって俺の胸をそわそわとさせる。
嫌じゃないけど……慣れていない感覚に、胸がむずがゆくなる感じ。



