「あ! 浅羽くん!」
後ろから聞こえた声に足を止めれば、そこには音無さんと、もう一人。
見慣れない女子生徒の姿があった。多分、音無さんの友人だろう。
「青羽、わたしは先に帰ってるね」
「え? でも……」
「いいから。せっかくの二人きりで帰れるチャンスでしょ」
黒髪ショートの女子生徒は、音無さんに手を振って先に歩き出す。
そして、俺の横を通り過ぎる時。
「――青羽を悲しませたら、許さないからね」
その目は真剣みを帯びていて、彼女の本気が伝わってくる。
「……うん。分かってる」
短くそう答えれば、女子生徒はそれ以上言葉を続けることなく行ってしまった。
「浅羽くん。こっちゃんと何話してたの?」
遅れてやってきた音無さんに、きょとんとした顔で尋ねられる。
「こっちゃん?」
「うん。小林琴美ちゃん。わたしの一番の友達なんだ」
音無さんの一番の友達。それならきっと、優しい子なんだろう。
さっきの言葉だけでも、彼女が音無さんをどれだけ大切に思っているのか伝わってきたし。
「そうなんだ。でも別に、大したことは話してないよ」
音無さんは会話の内容にそこまで興味がないのか、それ以上言及してくることはなかった。
そのまま二人で並んで歩きだす。



