「俺は……どうだろう。でもまぁ、いつか色々な世界に行ってみるのは夢かな」
「そうなんですね! すっごく素敵だと思います」
「音無さんも、夢とかあるの?」
「夢、そうですねぇ……」
一瞬、考え込むように上を向いた音無さんだったけど、すぐに「はい!」と明るく返事をする。
「それって、俺が聞いてもいい夢?」
「もちろんです! ……わたし、好きな人がいるんです。なのでその人を幸せにすることが、今のわたしの一番の夢なんです」
「……へぇ。俺のことが好きって言ってるくせに、他にも好きな人がいるんだ」
――あ、やばい。
自分で思っていたよりも、ずっと低い声が出てしまった。これじゃあ、俺が機嫌をそこねたってことが丸わかりだ。
だけど、あれだけ毎日俺に「好きだ」なんて言っているくせに、幸せにしたいと思えるくらい好きな人が他にいるとか……面白くないと思ってしまうのも、仕方のないことだと思う。
そろりと視線を横に向ければ、音無さんは大きな目をぱちぱちと瞬いていて、かと思えばクスクスと笑い始める。



