「あ、あの! わたし、音無青羽っていいます」
登校中、とつぜん俺の前に現れた彼女は、たどたどしく自己紹介をはじめた。
その声はふるえていて、表情もこわばっていて、緊張していることはすぐに分かった。
「浅羽蒼空くん、ですよね」
「……そうだけど」
「っ、あの! わたし、浅羽くんのことが好きです! わたしとお付き合いしてください!」
俺は始業ギリギリの時間に登校しているから、周囲に生徒の姿はほとんど見えない。
――とはいえ、ここは道のど真ん中で、人の目だってある。
それなのに彼女は、ぺこりと頭を下げて、はっきりとした声で思いを伝えてきた。
音無さんに告白された時、正直、すごく驚いた。
何故なら俺という人間は、“不良”と呼ばれる分類に入るからだ。
明るいブラウンに染めた髪色に、片耳にはシルバーのピアスが一つ。制服だって着崩している。
それに、自分で言うのも何だが、俺は愛想がいいとはとても言えないような性格をしている。その自覚があった。
同じく、素行がいいとは言えないような女子生徒が声をかけてくることはあったが、彼女のような大人しそうな女子生徒は、基本、俺に話しかけてはこない。
何なら、廊下ですれ違っただけで、怯えられたことだってある。
だから音無さんも、罰ゲームか何かで俺に告白をしてきたんじゃないかって……そう思ったんだ。



