「でも青羽ってば、どうして急に浅羽に声をかけるようになったの? ついこの前までは、遠目から見てるだけで十分とか言ってたのに」
空いているわたしの前の席に座ったこっちゃんが、不思議そうにたずねてくる。
こっちゃんの言う通り、数週間前までのわたしは、浅羽くんに自分から話しかけようだなんて全く思っていなかった。
浅羽くんのことは一年生の時から好きだったけど、話しかける勇気なんてなくて、いつも遠目からこっそり見ているだけだった。
それで幸せだって、そう思ってた。だけど……。
「……もう、後悔はしたくないって思ったんだ」
――もう、あんな思いはしたくないから。
手のひらをぎゅっと握りしめる。
忘れたくても忘れられない、嫌な記憶が頭の中に浮かんできて……だけど小さく頭をふって、その記憶を遠くへ追いやる。
……って、そんなこと言っても、きっと意味が分からないよね。
視線を持ち上げれば、こっちゃんはきょとんとした顔をしている。
「んー、よく分かんないけど……それで青羽が後悔しないっていうなら良かったよ。それに最近の青羽、活き活きしてるっていうか、すっごく楽しそうだし。浅羽のことはよく知らないけど、青羽がそこまで言うなら、きっといいやつなんだろうね」
そう言って、にっこり笑う。
こっちゃんの、相手の気持ちを尊重してくれるところや、思っていることを真っ直ぐに伝えてくれるところ、すごく素敵で大好きだなって思うんだ。



