四月の中旬。朝の通学時間。
地面に落ちていた桜の花びらが、春風にのってひらりと舞いおどっている。
片耳にBluetoothのイヤホンをして見慣れた道を歩いていれば、背後から足音が聞こえてきた。
「浅羽くん、おはよう!」
「……おはよう」
あいさつを返せば、黒髪ロングの女子生徒は、ぱあっと表情を明るくして駆けよってくる。
そして俺の目の前まで回りこんでくると、ふぅっと深呼吸を一つして、お決まりのセリフを口にする。
「浅羽くん、今日も好きです!」
「……毎日毎日、あきないね」
「うん! 浅羽くんにあきるなんてこと、絶対にありえないよ!」
ほっぺたをほんのり赤くして、にこにこ楽しそうに笑いながら、俺を「好きだ」というこの女子生徒は、音無青羽。
同じ中学校に通っていて、どうやらとなりのクラスに在籍しているらしい。
俺たちは中学二年生だが、つい最近まで彼女の存在は知らなかった。
彼女に聞いたところ、昨年のクラスも違ったらしい。
まぁ俺は基本、クラスのやつらとすらろくに会話をしたこともないから、同じクラスでも全員の顔と名前を覚えているかって言われたら……正直、うなずくことはできない。
そんな、接点などまるでなかった彼女が、どうして俺に声をかけてくるようになったのか。
音無さんと初めて言葉を交わしたのは、一週間前のことだ。



