2022年8月18日(木) 午後4時30分/タケシの部屋
タケシが失踪してから、タケシの家には重い空気が漂っていた。
タケシのおばさんは憔悴し、家族は皆どこか諦めたような表情をしている。
タケシが居なくなったと聞いた私は、タケシの家に来ていた。
私が家に行きたいと言うと、タケシのおばさんは、すぐに許可してくれた。
おばさんも藁にも縋る思いで、何か手がかりを求めているのかも知れない。
私は、ふとタケシの部屋に目を向ける。
この中に、何か手がかりがあるかもしれない——そう思った。
「お邪魔します……」
返事はない。
当たり前だ。タケシはもうここにはいないのだから。
私はそっと部屋のドアを開けた。
——そこには、タケシがいた頃のままの部屋が広がっていた。
ベッドの上には、充電が切れたままのスマホが転がっている。
机の上にはノートが開かれており、最後のページに殴り書きがあった。
私は、ノートを手に取った。私の指示通り、何か気になることがあれば、出来事と時間が記録されていた。
それ以外にも、思った事を書いていたのか感じた事を書き殴ったメモがあった。
<タケシのメモ(殴り書き)>
――――
・動画の中の狒々が、最初より近づいている
・夜、窓の外からキッキッキッって声がする
・スマホが勝手に動画を再生する
・裕也は信じない、でも俺はもうダメかもしれん
・目を合わせるな
――――
「……目を合わせるな?」
私は、思わず呟いた。
タケシは何かを感じ取っていたのか?
やはり、狒々はただの映像ではなく、"こちらを見ている"のではないか?
「……っ」
嫌な予感がした。
私はノートを閉じ、部屋の中を見渡す。
何か他に、彼が残したものはないか。
でも——
「……タケシは、何を知っていたの?」
机の上には、それ以上の手がかりはなかった。
私はノートを持って部屋を出る。
答えが欲しかった。
でも、その答えは——想像していたものより、ずっと恐ろしい形で現れることになるのだった。
2022年8月18日(木) 午後7時/裕也の異変
「うおお、マジでバズってる!」
裕也はスマホの画面を見ながら、興奮を隠せない様子だった。
動画はすでに50万再生を突破していた。
ネットでは「呪いの動画」として話題になり、ホラー系YouTuberやオカルト系サイトがこぞって取り上げ始めていた。
裕也は、動画のコメント欄を眺める。
そこには、視聴者たちの様々な反応が並んでいた。
――――
コメント欄
「マジでヤバい映像じゃん……」
「これ、社の奥にいるの、巫女じゃなくね?」
「巫女の後ろ、なんかいるんだけど」
――――
「は? 巫女じゃない? 何言ってんだこいつ」
裕也は眉をひそめながら、動画を再生した。
映像の中、社の奥で念仏を唱える巫女。
そのすぐそばに、黒い影——
——狒々がいた。
裕也は、固まった。
「……え?」
その瞬間——
画面の狒々が、ぎょろりと目を動かした。
そして、まっすぐに裕也を"見た"。
バチンッ!
突然、部屋の電気が消えた。
スマホの画面だけが、闇の中で淡く光を放っている。
画面の中の狒々は、ゆっくりと口を開いた。
「キッ……キッキッ……」
——その声が、部屋の中に響く。
「……っ!」
裕也は、慌ててスマホの電源を切ろうとする。
しかし、画面は消えない。
タップしても、スライドしても、電源ボタンを押しても、画面は狒々の姿を映し続けていた。
「おい、ふざけんな……! なんで……!」
——狒々の視線が、ゆっくりと近づいてくる。
「やめろ……やめろ……!!」
ドンッ!!
突然、部屋の窓が叩かれた。
「キッ……キッキッ……」
それは、スマホのスピーカーから聞こえた音ではなかった。
窓の外から聞こえたのだ——。
裕也は、恐る恐る窓に目を向ける。
そこには、何もいない。
しかし、スマホの画面の中——狒々は、もうすぐそこまで来ていた。

