ドアを開けて、1歩足を踏み入れる。
黒板に貼ってある座席表によると、廊下側1番前、つまり出入口に1番近い場所だった。
自分の席にスクールバックを置いて、腰を下ろす。
誰から、声をかけようか。
今教室にいる人たちをちらりと確認して、すぐに辞めた。
きっとお姉ちゃんなら、まずは近くにいる人に控えめに挨拶するはずだから。
『.....あの、お、おはよう...?』
まずは黒にピンクのインナカラーを入れ、ツインテールを綺麗に巻いた、隣の席の女の子に声をかける。
「おはよー!!ええ声掛けてくれてうれし〜!てか、めっちゃ可愛い!!顔ちっちゃーい!!!」
私が声をかけると、彼女はパッと笑顔になり、早口で話し始めた。
ひとりできゃっきゃと騒ぐ彼女は、少し年齢より幼く見える。
『そんな可愛くないよ〜顔もちっちゃくないし...。でもありがとう。...えっと、私、水瀬あざみっていうの。よろしくね?』
我ながらいい感じかも、と思いつつ、ツインテールに目を向ける。
ツインテールはまたさらに花が咲いたような笑顔を浮かべた。
「きゃ〜!!あざみちゃんほんとに可愛い!!あ、あざみちゃん...ってかあっちんって呼んでいい?私は佐伯美柚!美柚って呼んで〜!!」
もっと可愛らしい感じかと思ったが、意外とサバサバしているのかもしれない。
『美柚ちゃん...!名前も可愛いね!あっちんなんて初めてでちょっと照れるなぁ...』
えへへ、と笑えば美柚は「あっちんまじ可愛い!!」と机を2回叩いた。
「...お、りったんおはよ〜!!!」
そのあとも少し美柚と雑談していると、美柚は教室に入ってきた黒髪ロングの大人しそうな女の子に声をかけた。
「美柚、おはよ。また一緒だね。」
どうやら2人は以前から知り合いのようだ。
りったん、と呼ばれた彼女は、私の後ろの席に座った。
美柚は量産系、というんだろうか。
ぷっくりした涙袋と長めのアイラインが特徴的だが、“りったん”はほとんど化粧をしていないように見える。
美柚は美少女、“りったん”は美人、という感じだ。
「りったん、この子は水瀬あざみちゃん!あっちんって呼ぶことにしたの〜」
美柚が“りったん”に私を紹介してくれたので、私も“りったん”に目を合わせた。
『水瀬あざみです。よろしくね、えっと...りったん...?でいいのかな...?』
「美柚ったらもう友達作ったの?さすがだね。私は村元梨佳。梨佳でもりったんでも、好きなように呼んでね。...私はあっちんって呼んでいいかな」
そう言って微笑んだ梨佳は、清楚系代表、といった感じで、この学校にはあまりいないタイプだった。
『私もりったんって呼ばせてもらうね。これからよろしくね。...2人は前から知り合いなの?』
2人は一瞬顔を合わせると、ふふっと笑ってまた私に顔を向けた。
「美柚とは腐れ縁ってやつなの。幼なじみで幼稚園からずっと一緒。クラスすら離れたことないのよ。」
「りったん!?腐れ縁は酷くない!?幼なじみってだけでいいじゃーん!親同士も仲良くて、毎年キャンプとかも一緒にしてるんだよ〜!...あ、今年はあっちんの家も来る!?」
そう言いながら笑い合う2人は本当に仲が良さそうだった。
親同士も仲が良い、という言葉に羨ましさを感じながら、それを悟られないように笑顔を貼り付ける。
『家族ぐるみでキャンプなんて、本当に仲がいいんだね!私も行きたいけど、ちょっと忙しい両親だから無理かも...。ごめんね。』


