真新しい制服に袖を通し、姿見の前で身だしなみを整える。
今日から私、秋花あざみは高校生になる。
腰まであった髪はショートカットに。
中学までかけていた眼鏡は外し、代わりにナチュラルなカラーコンタクトを。
まつげパーマもかけ、さらに化粧を施した顔面は、中学の時の自分とはまるで別人だった。
所謂“高校デビュー”ということになるんだろうか。
かわいくなりたい、モテたい、といった感情は皆無だけれど。
それなのにここまで変えたのは、彼らに気に入られるため。
周りに、秋花ももの妹だと気づかれないようにするため。
『.....ママ、パパ、お姉ちゃん、行ってきます』
3人に声をかける。
もう、返事を聞けることはないけれど。
写真の中の私たちは眩しいくらいの笑顔で、少し、胸が痛んだ。
高校へと歩いて向かいながら、今後の高校生活について考える。
まずは、彼らと“自然に”出会わなければ意味が無い。
彼らに近づけなければ、県内一番の不良校花月高校に進学した意味が無い。
私の目的は、暴走族「帝華」と近づくこと。
そして総長の彼女─────姫、と呼ばれる存在になること。
かつて、お姉ちゃんがそうだったように。
笑顔が絶えず、誰にでも優しいお姉ちゃんとは違って、私は姫なんて柄じゃないけれど、やりきってみせる。
あの日、そう誓ったから。
─────なんて考え事していると、あっという間に高校に着いていた。
さすがは不良校、と言うべきか。
クラス分けを見ている新入生たちの髪色が、既にカラフルだった。
さらに、少し離れたところにいても感じる香水の匂い。
お姉ちゃんは、本当にこんな所に通っていたのかと少し疑問に思いながらも、自分のクラスを確認するために足を進める。
一通り“秋花あざみ”を探してから、自分がこの高校に入学前に、名字を“水瀬”に変えるよう、校長先生に直談判したことを思い出す。
お姉ちゃんは良くも悪くも有名だったから。
“秋花”というだけで、バレる可能性があった。
校長先生はあの秋花ももの妹ということに驚き、本当にこの高校で良いのかとしきりに聞いてきたが、最終的には母親の旧姓である“水瀬”で入学することを許可してくれた。


