料理を待つこと約二十分。白いお皿を持った天音くんが、軽い足取りでフロアに戻って来た。
「お待たせ~。本日のおすすめセットだよ」
「わあ、ありがとう……」
お礼を伝えたものの、テーブルに置かれた皿を見て、目が点になる。平皿に盛られているのは、ほかほかの白米。それだけ。
「さあ、早く食べて!」
天音くんは、目を輝かせながら食べるように促す。食べるといったって、白米だけじゃ……。だけど、注目されていると手を付けないわけにはいかなくなる。
「いただきます」
「はい、召し上がれ~」
上機嫌な天音くんに見守られながら、ほかほかの白米を一口食べる。
「美味しい?」
もぐもぐと咀嚼していると、天音くんからキラキラした眼差しを向けられる。私はごくんと飲み込んでから頷いた。
「うん、美味しいよ」
素直に感想を伝えると、天音くんはとろけるような笑顔を浮かべた。
「えへへ、良かったぁ。もっとたくさん食べてね。おかわりもあるから」
「う、うん」
おかずも欲しいんだけど……なんて言ったらダメかな?
もぐもぐと白米を食べていると、天音くんは頬に手を添えながらうっとりした表情を浮かべる。
「嬉しいなぁ、たくさん食べてくれて。もっとたくさん僕を食べてよ」
僕を食べて? どういうこと? ごくんと飲み込んでから聞き返そうとしたところで、天音くんの頭にスパーンとハリセンが振り下ろされた。
「おい、天音! なんで先に白米だけ食わせてんだよ! 嫌がらせかっ!」
天音くんの頭を叩いたのは、金髪のヤンキー男子だ。天音くんは「いてて」と頭をさすった後、むっと頬をふくらませた。
「痛いよ、遊くん! 暴力反対!」
「お前が勝手なことしてるからだろ! 大体お前は素早すぎるんだよ!」
「そりゃあ糖質だもん。誰よりも素早い栄養素だもん」
糖質? 栄養素? 天音くんは、一体何を言っているの?
ぱちぱちと瞬きを繰り返していると、大皿を持った赤髪の体育会系男子がやってくる。
「待たせたな。メインディッシュを持って来たぞ」
お皿には、トマトソースで煮込んだ鶏肉、玉ねぎ、ブロッコリー、ナスがごろごろ入っている。すごく美味しそう!
赤髪の男の子は、にっと笑いながら料理をテーブルに乗せる。すると金髪の男の子と肩を組んだ。
「鶏肉にはタンパク質と脂質が含まれているからな。しっかり食べてくれよ!」
ハキハキとおすすめする赤髪の男の子とは対照的に、金髪の男の子は恥ずかしそうにそっぽを向いている。
「……鶏もも肉だから、脂質もまあまあ含まれてるぜ」
あれ? さっきまでの勢いはどうしたのかな?
疑問に思っていると、豆腐とワカメのサラダを持ったハーフアップのお兄さんと、いちごのヨーグルトムースを持った黒髪の男の子が現れた。
「おいおい、レストランではサラダを最初に出すって教えただろ。自分たちの分だけ勝手に運ぶんじゃねーよ」
「まあまあ、椎南さん。高級フレンチではないのですから、あまり堅苦しいことを言うのはやめましょうよ。育さんのお好きな順番で召し上がっていただければいいじゃないですか」
二人が料理を運んできたところで、本日のおすすめセットが揃った。お腹が空いているから食べ始めたいんだけど、色々気になることがある。
「あ、あの、質問いいですか?」
小さく手を挙げながら、おずおずと尋ねる。
「ん? なあに、育ちゃん」
天音くんに促されたところで、率直な疑問をぶつけた。
「さっきから気になっていたんですけど、僕を食べてとか、誰を食べるとか、何なんですか? 私が何か食べると、妙に嬉しがったり恥ずかしがったりしているようにも見えるんですけど……」
ウェイターさんが学生だけなのも気になる。普通のレストランだったら、大人が働いているはずなのに。値段が100円なのもやっぱり安すぎるよ。このレストラン、ちょっとおかしいかも……。
ドキドキしながら返事を待っていると、赤髪の男の子がカラッとした笑顔で答える。
「俺たちは栄養素が擬人化した食育男子だからなっ。自分を食べてもらえたら、嬉しいに決まっているだろ!」
「「おい~!」」
金髪の男の子と、ハーフアップのお兄さんが一斉に叫ぶ。その隣で天音くんが、「あちゃ~」とおでこを押さえていた。
「あーあ、亜実望くんがバラしちゃった」
「まあ、遅かれ早かれこうなっていたと思いますよ」
黒髪の男の子だけはやけに冷静な反応をしていた。説明されたところで、私の頭は余計にこんがらがっていく。
「栄養素? 擬人化? 食育男子? どういうこと?」
「お待たせ~。本日のおすすめセットだよ」
「わあ、ありがとう……」
お礼を伝えたものの、テーブルに置かれた皿を見て、目が点になる。平皿に盛られているのは、ほかほかの白米。それだけ。
「さあ、早く食べて!」
天音くんは、目を輝かせながら食べるように促す。食べるといったって、白米だけじゃ……。だけど、注目されていると手を付けないわけにはいかなくなる。
「いただきます」
「はい、召し上がれ~」
上機嫌な天音くんに見守られながら、ほかほかの白米を一口食べる。
「美味しい?」
もぐもぐと咀嚼していると、天音くんからキラキラした眼差しを向けられる。私はごくんと飲み込んでから頷いた。
「うん、美味しいよ」
素直に感想を伝えると、天音くんはとろけるような笑顔を浮かべた。
「えへへ、良かったぁ。もっとたくさん食べてね。おかわりもあるから」
「う、うん」
おかずも欲しいんだけど……なんて言ったらダメかな?
もぐもぐと白米を食べていると、天音くんは頬に手を添えながらうっとりした表情を浮かべる。
「嬉しいなぁ、たくさん食べてくれて。もっとたくさん僕を食べてよ」
僕を食べて? どういうこと? ごくんと飲み込んでから聞き返そうとしたところで、天音くんの頭にスパーンとハリセンが振り下ろされた。
「おい、天音! なんで先に白米だけ食わせてんだよ! 嫌がらせかっ!」
天音くんの頭を叩いたのは、金髪のヤンキー男子だ。天音くんは「いてて」と頭をさすった後、むっと頬をふくらませた。
「痛いよ、遊くん! 暴力反対!」
「お前が勝手なことしてるからだろ! 大体お前は素早すぎるんだよ!」
「そりゃあ糖質だもん。誰よりも素早い栄養素だもん」
糖質? 栄養素? 天音くんは、一体何を言っているの?
ぱちぱちと瞬きを繰り返していると、大皿を持った赤髪の体育会系男子がやってくる。
「待たせたな。メインディッシュを持って来たぞ」
お皿には、トマトソースで煮込んだ鶏肉、玉ねぎ、ブロッコリー、ナスがごろごろ入っている。すごく美味しそう!
赤髪の男の子は、にっと笑いながら料理をテーブルに乗せる。すると金髪の男の子と肩を組んだ。
「鶏肉にはタンパク質と脂質が含まれているからな。しっかり食べてくれよ!」
ハキハキとおすすめする赤髪の男の子とは対照的に、金髪の男の子は恥ずかしそうにそっぽを向いている。
「……鶏もも肉だから、脂質もまあまあ含まれてるぜ」
あれ? さっきまでの勢いはどうしたのかな?
疑問に思っていると、豆腐とワカメのサラダを持ったハーフアップのお兄さんと、いちごのヨーグルトムースを持った黒髪の男の子が現れた。
「おいおい、レストランではサラダを最初に出すって教えただろ。自分たちの分だけ勝手に運ぶんじゃねーよ」
「まあまあ、椎南さん。高級フレンチではないのですから、あまり堅苦しいことを言うのはやめましょうよ。育さんのお好きな順番で召し上がっていただければいいじゃないですか」
二人が料理を運んできたところで、本日のおすすめセットが揃った。お腹が空いているから食べ始めたいんだけど、色々気になることがある。
「あ、あの、質問いいですか?」
小さく手を挙げながら、おずおずと尋ねる。
「ん? なあに、育ちゃん」
天音くんに促されたところで、率直な疑問をぶつけた。
「さっきから気になっていたんですけど、僕を食べてとか、誰を食べるとか、何なんですか? 私が何か食べると、妙に嬉しがったり恥ずかしがったりしているようにも見えるんですけど……」
ウェイターさんが学生だけなのも気になる。普通のレストランだったら、大人が働いているはずなのに。値段が100円なのもやっぱり安すぎるよ。このレストラン、ちょっとおかしいかも……。
ドキドキしながら返事を待っていると、赤髪の男の子がカラッとした笑顔で答える。
「俺たちは栄養素が擬人化した食育男子だからなっ。自分を食べてもらえたら、嬉しいに決まっているだろ!」
「「おい~!」」
金髪の男の子と、ハーフアップのお兄さんが一斉に叫ぶ。その隣で天音くんが、「あちゃ~」とおでこを押さえていた。
「あーあ、亜実望くんがバラしちゃった」
「まあ、遅かれ早かれこうなっていたと思いますよ」
黒髪の男の子だけはやけに冷静な反応をしていた。説明されたところで、私の頭は余計にこんがらがっていく。
「栄養素? 擬人化? 食育男子? どういうこと?」
