翌日、天音くんは学校に来なかった。距離を置こうとは言ったけど、学校に来ないでという意味ではなかったんだけどな。ガランと空いた後ろの席を見ていると、胸が苦しくなった。
天音くんがお休みだと、教室の雰囲気もちょっと暗い。藤室ファンクラブのメンバーも、がっかりしたように肩を落としていた。
「藤室くん、風邪かな? 育ちゃん、なにか聞いてる?」
花梨ちゃんに尋ねられてドキッとする。
「ううん。私も何も聞いてないや」
咄嗟に嘘をついてしまった。本当のことなんて、言えるはずがない。
窓の外を眺めながら、ため息をつく。天音くん、もう学校に来ないつもりかな? 私のせいで学校に来られなくなってしまったと考えると、申しわけなさでいっぱいになる。謝りに行った方がいいのかな? でも、距離を置くって決めたしなぁ……。
その日は、天音くんのことばかり考えていたせいで、授業に身が入らなかった。
◇
昼休み。コンビニで買ったサラダを食べようとしたところで、教室のドアが荒々しく開く。
「おい、育。ちょっとツラ貸せ」
ドアの前には、不機嫌そうな遊くんが立っている。どう見ても怒ってるよ。私が天音くんを傷つけちゃったせいだよね。
私はビクビクしながら立ち上がり、遊くんのもとへ駆け寄った。教室を出ると、困り顔を浮かべた亜実望くんもいた。
「育、昼飯を食いながら話をしよう」
拒むことなどできるはずもなく、私は無言で頷いた。
今日はあいにくの雨模様。中庭でお昼を食べることはできないから、空き教室を使わせてもらうことにした。昨日、天音くんといざこざが合った場所だから、中に入るだけでキリっと胸が痛んだ。
三人で机を並べると、遊くんが本題を切り出す。
「天音と喧嘩でもしたのか? あいつ、昨日から落ち込んでいるんだ。今朝も布団を被ったまま『学校行かない』って不貞腐れていたし」
天音くん、おうちでも元気なかったんだ。当然だよね。距離を置きたいなんて言われたら誰でも傷つくよ。
「うん、ちょっと色々あって」
言葉を濁していると、亜実望くんから真剣な眼差しで尋ねられる。
「詳しく話を聞かせてもらえないか? 力になれることがあるかもしれない」
亜実望くんにも心配かけちゃたみたい。このままじゃダメだ。みんなに安心してもらうためにも、平静を装わないと。
「実は最近太っちゃってダイエットを始めたんだ。だから糖質を控えようと思って」
男子にからかわれたことは伏せて、できる限り明るく説明する。
「だから昼飯がそんなに質素なのか?」
「うん、そうなの」
納得してもらえたかな? 笑顔を取り繕っていると、遊くんが頭をかきながらため息をついた。
「なるほどな。糖質をとらないって言ったから、天音が不貞腐れているのか。だけど、いくらダイエットでもサラダだけっつーのは腹が減るだろ? 俺のコロッケパンをやるから食え」
「俺の肉巻きおにぎりも食べろ」
二人の気持ちはありがたいんだけど、今は誘惑に負けるわけにはいかない。
「いい! いりません! パンも白米も食べないって決めてるから」
「そんなんじゃ身体壊すぞ!」
遊くんの荒々しい声でビクッと肩が跳ねる。たしかに三食サラダっていうのはバランスが悪いよね。背中を丸めて小さくなっていると、亜実望くんが心配そうに肩に触れた。
「せめて夕食はうちに食べに来い。椎南に頼んで、カロリー控えめのメニューを用意してもらうから」
「それは、助かります……」
結局、夕食はひだまりレストランで食べるということで、話し合いは終わった。
天音くんがお休みだと、教室の雰囲気もちょっと暗い。藤室ファンクラブのメンバーも、がっかりしたように肩を落としていた。
「藤室くん、風邪かな? 育ちゃん、なにか聞いてる?」
花梨ちゃんに尋ねられてドキッとする。
「ううん。私も何も聞いてないや」
咄嗟に嘘をついてしまった。本当のことなんて、言えるはずがない。
窓の外を眺めながら、ため息をつく。天音くん、もう学校に来ないつもりかな? 私のせいで学校に来られなくなってしまったと考えると、申しわけなさでいっぱいになる。謝りに行った方がいいのかな? でも、距離を置くって決めたしなぁ……。
その日は、天音くんのことばかり考えていたせいで、授業に身が入らなかった。
◇
昼休み。コンビニで買ったサラダを食べようとしたところで、教室のドアが荒々しく開く。
「おい、育。ちょっとツラ貸せ」
ドアの前には、不機嫌そうな遊くんが立っている。どう見ても怒ってるよ。私が天音くんを傷つけちゃったせいだよね。
私はビクビクしながら立ち上がり、遊くんのもとへ駆け寄った。教室を出ると、困り顔を浮かべた亜実望くんもいた。
「育、昼飯を食いながら話をしよう」
拒むことなどできるはずもなく、私は無言で頷いた。
今日はあいにくの雨模様。中庭でお昼を食べることはできないから、空き教室を使わせてもらうことにした。昨日、天音くんといざこざが合った場所だから、中に入るだけでキリっと胸が痛んだ。
三人で机を並べると、遊くんが本題を切り出す。
「天音と喧嘩でもしたのか? あいつ、昨日から落ち込んでいるんだ。今朝も布団を被ったまま『学校行かない』って不貞腐れていたし」
天音くん、おうちでも元気なかったんだ。当然だよね。距離を置きたいなんて言われたら誰でも傷つくよ。
「うん、ちょっと色々あって」
言葉を濁していると、亜実望くんから真剣な眼差しで尋ねられる。
「詳しく話を聞かせてもらえないか? 力になれることがあるかもしれない」
亜実望くんにも心配かけちゃたみたい。このままじゃダメだ。みんなに安心してもらうためにも、平静を装わないと。
「実は最近太っちゃってダイエットを始めたんだ。だから糖質を控えようと思って」
男子にからかわれたことは伏せて、できる限り明るく説明する。
「だから昼飯がそんなに質素なのか?」
「うん、そうなの」
納得してもらえたかな? 笑顔を取り繕っていると、遊くんが頭をかきながらため息をついた。
「なるほどな。糖質をとらないって言ったから、天音が不貞腐れているのか。だけど、いくらダイエットでもサラダだけっつーのは腹が減るだろ? 俺のコロッケパンをやるから食え」
「俺の肉巻きおにぎりも食べろ」
二人の気持ちはありがたいんだけど、今は誘惑に負けるわけにはいかない。
「いい! いりません! パンも白米も食べないって決めてるから」
「そんなんじゃ身体壊すぞ!」
遊くんの荒々しい声でビクッと肩が跳ねる。たしかに三食サラダっていうのはバランスが悪いよね。背中を丸めて小さくなっていると、亜実望くんが心配そうに肩に触れた。
「せめて夕食はうちに食べに来い。椎南に頼んで、カロリー控えめのメニューを用意してもらうから」
「それは、助かります……」
結局、夕食はひだまりレストランで食べるということで、話し合いは終わった。
