「何かあるかな~?」

冷蔵庫を開けるも、中身は空っぽ。そういえば今週はイラストの提出と数学の小テストが重なって買い物に行けなかったんだ……。

こういう時は、アレに頼るしかない。戸棚をガサゴソ漁ってカップ麺を取り出した。カレー味のカップ麺。私の一番好きな味だ。買い置きしておいてよかったぁ。

やかんに水を入れて、火にかける。しんと静まり返ったキッチンで立ち尽くしながら、沸騰するのを待った。壁掛け時計に目を向けると、夜の十時を回っている。こんな時間まで何も食べていなければ、お腹の虫が騒ぎ出すのも無理はないね。

きっと普通のお家なら、お父さんかお母さんが食事の支度をしてくれるのだろうけど、うちの場合はそうではない。
私は、広い一軒家でひとり暮らしをしている。新学期が始まる直前に、お父さんの海外転勤が決まったからだ。

お父さんと一緒に海外に行くか、ひとりでこの家に残るか、究極の選択に迫られた末、私は家に残る決断をしたの。今通っている学校から転校したくなかったからね。せっかく仲の良いお友達ができたのに、離れ離れになるなんて絶対嫌だもん。
それに、お父さんに付いていったら、お仕事の邪魔をしちゃうかもしれないし……。お仕事に集中してもらうためにも、家に残ることを決めたんだ。

お母さんは、私が小学六年生の時に天国へ旅立ってしまった。お母さんのことを思い出すと胸が苦しくなるけど、もう気持ちの整理はついている。みんなに心配かけないためにも、しっかりしないとダメなんだ。

ぼんやり考え事をしているうちに、やかんのお湯が沸騰しはじめた。ガスコンロの火を止めてから、カップ麺にお湯を注ぐ。カレーの匂いがキッチンに漂うと、もう一度お腹の虫が鳴き出した。

カップ麺をリビングに運んでから、食べごろになるのを待つ。ダイニングテーブルの上で頬杖をついていると、ふと昔の記憶が過った。

お母さんが元気だった頃は、家族みんなでご飯を食べていたっけ。お母さんは料理上手だったから、何を食べても美味しかったなぁ。唐揚げも、ハンバーグも、シチューも、肉じゃがも、ホットケーキも。
いつも忙しそうにしているお父さんも、夕食の時だけは私の話を聞いてくれたっけ。みんなでお喋りしながらご飯を食べる時間は、とっても楽しかったなぁ。

だけど今は、ひとりぼっちだ。食事の時間もあんまり楽しくない。広いリビングでひとりぼっちでご飯を食べていると、無性に寂しくなるの。
最近では何を食べても、昔ほど美味しいとは思えなくなっちゃったんだ。どうしてだろうね?

三分経ってから、カップ麺の蓋を剥がす。ふぅふぅと冷ましてから、ズズズッと麺をすすった。

「…………」

一口食べてから、そっと箸を置く。大好きだったカレー味のカップ麺は、今日もあんまり美味しくなかった。