二人につれて来られたのは、グリーン公園の一角にあるバーベキュースペース。やることってもしかして……。
「肉を食うぞ~!」
「脂を摂取するぞ!」
亜実望くんと遊くんが「うおおお~!」と拳を突き上げながら盛り上がっている。そこで私もデートプランを把握した。
グリーン公園には、バーベキュースペースがあるんだ。事前に予約をしておけば、コンロや炭などを用意してもらえるの。二人は事前に予約をしていたようで、案内された区画には道具が揃っていた。
バーベキューなんて久しぶりだからワクワクする! 青空の下で食事を作るのって、絶対楽しいじゃん!
遊くんはパーカーの袖を捲ると、バーベキューコンロに近付く。
「亜実望、火を起こすぞ」
「おう!」
火起こしなんて大人でも苦労するのに、二人は抜群の連携プレイで炭に火をつけていた。すごい、手慣れている。
……なんて感心している場合じゃない! 私も働かないと。
「私は何をすればいいかな?」
小さく手を挙げながら尋ねると、遊くんはスーパーの袋を指さした。
「食材を食べやすい大きさに切ってくれ。まな板と包丁もレンタルしてるから」
「うん、分かった!」
役割を与えられたところで、アウトドアテーブルにまな板を乗せて肉と野菜を広げた。カルビ、ロース、タン、トントロもあるね。……っていうか、肉多くない? 野菜は、玉ねぎとトウモロコシしかないよ。
遊くんと亜実望くんが買ってきたから、肉ばっかりになっているのかも。もしかして、遊くんの言っていた悪いことって、肉でお腹いっぱいにすることなのかな? この状況を椎南さんが見たら、また落ち込んじゃいそうだなぁ。
苦笑いを浮かべながらも、肉を食べやすい大きさにカットする。一応、野菜も切っておこう。ちゃんと焼いてもらえるのかは分からないけど。すべて切り終えたところで、遊くんがこちらに近付いてきた。
「どうだ? 肉は切り終わったか?」
「うん。こんな感じで良いかな?」
「上出来だ。じゃあ焼いてくるな」
遊くんは切り終わった肉を運ぶと、網の上で焼き始めた。ジューッと食欲をそそる音が聞こえている。うう……お腹が空いてきたよ。焼き上がるのを待っていると、亜実望くんが駆け寄ってくる。
「ん? どうしたの?」
「遊が、ここは俺に任せて育の相手をしてやれって言っていたからな。せっかくのデートだし、二人で話そう」
亜実望くんは明るく笑いながら、アウトドアチェアに腰掛けた。遊くんが亜実望くんと話をする時間を作ってくれたのは意外だな。気を遣ってくれたのかな? せっかくの機会だし、亜実望くんともじっくりお話しよう。
とはいえ、亜実望くんっていつもみんなと一緒にいるから、二人きりになると緊張しちゃうな。モジモジしていると、亜実望くんから話題を振ってきた。
「育はイラストを描いているんだって? もしよければ俺にも見せてくれないか?」
「うん。それは構わないけど」
亜実望くんがイラストに興味を持ってくれるとは思わなかった。体育会系だから、文化系の趣味には興味がなさそうに思えたから。私のイラストは、SNSでは大勢の人に見られているけど、知り合いに見せるのは緊張する。ドキドキしながらも、スマホで作品を見せた。
「これは一昨日描いたイラストだよ。ケーキと男の子を描いたんだけど」
ショートケーキの上に男の子がちょこんと腰掛けているイラストだ。ほんわかした色彩で、気に入っているんだぁ。男の子は天音くんをモデルにしているってことは内緒だけど。イラストを見た亜実望くんは、「おお~!」と目を輝かせる。
「天才じゃないか!」
「天才は言い過ぎだよっ」
「言い過ぎなんかじゃない。人物も可愛いし、ケーキも美味そうだ。なにより優しい色使いがいい! 見ているだけで心が和む」
そんなに褒められたら照れちゃうなぁ。じわじわ顔が熱くなっていくのを感じていると、亜実望くんは白い歯を見せながら笑った。
「育の優しい心が絵に現れているようだ。きっとこれが個性なんだろうな」
個性。そんなのは意識したことがなかった。今までは、自分が可愛いと思うものを自由に描いていただけだったから。だけど個性と言われたことで、自分の強みが見つかった気がした。そっか。これは私にしか描けない絵なんだ。
認めてもらえたのは嬉しい。亜実望くんにだったら、もう少し踏み込んだ話をしてもいいと思えた。
「私ね、将来はイラストレーターになりたいと思っているんだ。駅に貼ってあるでっかいポスターとかお菓子のパッケージとかを描いてみたいの。それで私のイラストを見てくれた人に、たくさんの夢を与えたい」
誰かに夢の話をするのはちょっと怖い。そんなの無理だって笑われたら傷つくから。だけど亜実望くんは笑うことはなかった。エネルギーに満ち溢れた瞳を向けながら、私の両手を握りしめる。
「その夢、俺にも応援させてくれないか?」
「応援!?」
まさかそんなことを言われるとは思わなかった。びっくりしたけど、その気持ちは嬉しい。
「うん、応援してもらえたら、もっと頑張れそうだよ」
触れている手を握り返すと、亜実望くんはびっくりしたように目を見開いた。
あれ? もしかして強く握ったから痛かった?
手を放そうとしたところで、再びぎゅっと握られた。顔を上げると、いつになく真剣な眼差しで告げられる。
「俺は、夢に向かって頑張っている子が好きだし、応援したいと思っている。俺にできることがあれば何でも言ってくれ」
熱い言葉に胸を打たれる。亜実望くん、私の夢を本気で応援してくれているんだ。
「ありがとう。そう言ってもらえると心強いよ」
亜実望くんといると元気をもらえるなぁ。タンパク質が擬人化した食育男子だから、力強くてエネルギーに満ち溢れているんだろうね。
和やかな空気に包まれていると、亜実望くんは椅子から立ち上がって拳を握る。
「力をつけるためにも肉を食え! タンパク質は、筋肉や皮膚、内臓などあらゆる器官を作る材料になるんだ。俺が不足したら成長の妨げになる。夢を叶える力をつけるためにも、毎日欠かさず食べてくれ!」
タンパク質って、そんなに重要なものなんだ。身体を作る材料になるなら、毎日きちんと摂取しないといけないね。
「お肉、食べるよ。たくさん食べる!」
「よしっ、待ってろ! 今、取ってくる!」
亜実望くんはバーベキューコンロまで走っていくと、焼き上がった肉をポンポンと皿に盛っていく。それは流石に盛り過ぎなんじゃ……。山盛りになった肉を運んでくると、ニカッと明るく微笑みながら差し出してくる。
「さあ、食べろ。カルビ、タン、ロースのどれにもタンパク質は含まれているぞ」
「う、うん。いただきます」
山盛りの肉に怖気づきながらも、割り箸を握る。亜実望くんに見守られながら、こんがり焼けたカルビを口に運んだ。
「んんっ! 美味しい!」
口の中で肉汁がじゅわーっと広がっていく。肉も柔らかくて、すぐに噛み切れた。美味しい肉と幸せを噛みしめていると、亜実望くんは嬉しそうに微笑んだ。
「俺が育を最高にハッピーにしてやる」
真っすぐな言葉にドキッとする。亜実望くんと一緒にいれば、明るく前向きな自分でいられるような気がした。
その後もお喋りしながら肉を食べていると、足元にサッカーボールが転がってくる
「お兄ちゃん、ボール取って」
芝生のほうに視線を向けると小学生が手を振っていた。
「おう!」
亜実望くんは、軽やかな動きでボールを蹴るとリフティングを始める。凄い! まるでサッカーボールとじゃれ合っているみたい。ふわっと宙に浮いたボールを蹴ると、男の子の足もとに一直線に飛んでいった。
「ナイスパス!」
「お兄ちゃん上手いな! 俺らと一緒にサッカーしようぜ!」
子どもたちのハートを一瞬で掴んじゃったよ! サッカーに誘われた亜実望くんだったが、私の顔を見ながら困ったように眉を下げる。
「誘ってくれたのは嬉しいけど、今はデート中だからなぁ」
私に遠慮しているみたい。そんな気遣いはいらないのに。
「いいよ。サッカーしておいで」
「本当か? ありがとな。じゃあちょっと行ってくる!」
行っておいでと背中を押すと、亜実望くんはイキイキとした顔で子どもたちの輪に加わった。
亜実望くん、楽しそうだなぁ。本当にスポーツが大好きなんだろうね。夢中になれることがあるって素敵だね。
「肉を食うぞ~!」
「脂を摂取するぞ!」
亜実望くんと遊くんが「うおおお~!」と拳を突き上げながら盛り上がっている。そこで私もデートプランを把握した。
グリーン公園には、バーベキュースペースがあるんだ。事前に予約をしておけば、コンロや炭などを用意してもらえるの。二人は事前に予約をしていたようで、案内された区画には道具が揃っていた。
バーベキューなんて久しぶりだからワクワクする! 青空の下で食事を作るのって、絶対楽しいじゃん!
遊くんはパーカーの袖を捲ると、バーベキューコンロに近付く。
「亜実望、火を起こすぞ」
「おう!」
火起こしなんて大人でも苦労するのに、二人は抜群の連携プレイで炭に火をつけていた。すごい、手慣れている。
……なんて感心している場合じゃない! 私も働かないと。
「私は何をすればいいかな?」
小さく手を挙げながら尋ねると、遊くんはスーパーの袋を指さした。
「食材を食べやすい大きさに切ってくれ。まな板と包丁もレンタルしてるから」
「うん、分かった!」
役割を与えられたところで、アウトドアテーブルにまな板を乗せて肉と野菜を広げた。カルビ、ロース、タン、トントロもあるね。……っていうか、肉多くない? 野菜は、玉ねぎとトウモロコシしかないよ。
遊くんと亜実望くんが買ってきたから、肉ばっかりになっているのかも。もしかして、遊くんの言っていた悪いことって、肉でお腹いっぱいにすることなのかな? この状況を椎南さんが見たら、また落ち込んじゃいそうだなぁ。
苦笑いを浮かべながらも、肉を食べやすい大きさにカットする。一応、野菜も切っておこう。ちゃんと焼いてもらえるのかは分からないけど。すべて切り終えたところで、遊くんがこちらに近付いてきた。
「どうだ? 肉は切り終わったか?」
「うん。こんな感じで良いかな?」
「上出来だ。じゃあ焼いてくるな」
遊くんは切り終わった肉を運ぶと、網の上で焼き始めた。ジューッと食欲をそそる音が聞こえている。うう……お腹が空いてきたよ。焼き上がるのを待っていると、亜実望くんが駆け寄ってくる。
「ん? どうしたの?」
「遊が、ここは俺に任せて育の相手をしてやれって言っていたからな。せっかくのデートだし、二人で話そう」
亜実望くんは明るく笑いながら、アウトドアチェアに腰掛けた。遊くんが亜実望くんと話をする時間を作ってくれたのは意外だな。気を遣ってくれたのかな? せっかくの機会だし、亜実望くんともじっくりお話しよう。
とはいえ、亜実望くんっていつもみんなと一緒にいるから、二人きりになると緊張しちゃうな。モジモジしていると、亜実望くんから話題を振ってきた。
「育はイラストを描いているんだって? もしよければ俺にも見せてくれないか?」
「うん。それは構わないけど」
亜実望くんがイラストに興味を持ってくれるとは思わなかった。体育会系だから、文化系の趣味には興味がなさそうに思えたから。私のイラストは、SNSでは大勢の人に見られているけど、知り合いに見せるのは緊張する。ドキドキしながらも、スマホで作品を見せた。
「これは一昨日描いたイラストだよ。ケーキと男の子を描いたんだけど」
ショートケーキの上に男の子がちょこんと腰掛けているイラストだ。ほんわかした色彩で、気に入っているんだぁ。男の子は天音くんをモデルにしているってことは内緒だけど。イラストを見た亜実望くんは、「おお~!」と目を輝かせる。
「天才じゃないか!」
「天才は言い過ぎだよっ」
「言い過ぎなんかじゃない。人物も可愛いし、ケーキも美味そうだ。なにより優しい色使いがいい! 見ているだけで心が和む」
そんなに褒められたら照れちゃうなぁ。じわじわ顔が熱くなっていくのを感じていると、亜実望くんは白い歯を見せながら笑った。
「育の優しい心が絵に現れているようだ。きっとこれが個性なんだろうな」
個性。そんなのは意識したことがなかった。今までは、自分が可愛いと思うものを自由に描いていただけだったから。だけど個性と言われたことで、自分の強みが見つかった気がした。そっか。これは私にしか描けない絵なんだ。
認めてもらえたのは嬉しい。亜実望くんにだったら、もう少し踏み込んだ話をしてもいいと思えた。
「私ね、将来はイラストレーターになりたいと思っているんだ。駅に貼ってあるでっかいポスターとかお菓子のパッケージとかを描いてみたいの。それで私のイラストを見てくれた人に、たくさんの夢を与えたい」
誰かに夢の話をするのはちょっと怖い。そんなの無理だって笑われたら傷つくから。だけど亜実望くんは笑うことはなかった。エネルギーに満ち溢れた瞳を向けながら、私の両手を握りしめる。
「その夢、俺にも応援させてくれないか?」
「応援!?」
まさかそんなことを言われるとは思わなかった。びっくりしたけど、その気持ちは嬉しい。
「うん、応援してもらえたら、もっと頑張れそうだよ」
触れている手を握り返すと、亜実望くんはびっくりしたように目を見開いた。
あれ? もしかして強く握ったから痛かった?
手を放そうとしたところで、再びぎゅっと握られた。顔を上げると、いつになく真剣な眼差しで告げられる。
「俺は、夢に向かって頑張っている子が好きだし、応援したいと思っている。俺にできることがあれば何でも言ってくれ」
熱い言葉に胸を打たれる。亜実望くん、私の夢を本気で応援してくれているんだ。
「ありがとう。そう言ってもらえると心強いよ」
亜実望くんといると元気をもらえるなぁ。タンパク質が擬人化した食育男子だから、力強くてエネルギーに満ち溢れているんだろうね。
和やかな空気に包まれていると、亜実望くんは椅子から立ち上がって拳を握る。
「力をつけるためにも肉を食え! タンパク質は、筋肉や皮膚、内臓などあらゆる器官を作る材料になるんだ。俺が不足したら成長の妨げになる。夢を叶える力をつけるためにも、毎日欠かさず食べてくれ!」
タンパク質って、そんなに重要なものなんだ。身体を作る材料になるなら、毎日きちんと摂取しないといけないね。
「お肉、食べるよ。たくさん食べる!」
「よしっ、待ってろ! 今、取ってくる!」
亜実望くんはバーベキューコンロまで走っていくと、焼き上がった肉をポンポンと皿に盛っていく。それは流石に盛り過ぎなんじゃ……。山盛りになった肉を運んでくると、ニカッと明るく微笑みながら差し出してくる。
「さあ、食べろ。カルビ、タン、ロースのどれにもタンパク質は含まれているぞ」
「う、うん。いただきます」
山盛りの肉に怖気づきながらも、割り箸を握る。亜実望くんに見守られながら、こんがり焼けたカルビを口に運んだ。
「んんっ! 美味しい!」
口の中で肉汁がじゅわーっと広がっていく。肉も柔らかくて、すぐに噛み切れた。美味しい肉と幸せを噛みしめていると、亜実望くんは嬉しそうに微笑んだ。
「俺が育を最高にハッピーにしてやる」
真っすぐな言葉にドキッとする。亜実望くんと一緒にいれば、明るく前向きな自分でいられるような気がした。
その後もお喋りしながら肉を食べていると、足元にサッカーボールが転がってくる
「お兄ちゃん、ボール取って」
芝生のほうに視線を向けると小学生が手を振っていた。
「おう!」
亜実望くんは、軽やかな動きでボールを蹴るとリフティングを始める。凄い! まるでサッカーボールとじゃれ合っているみたい。ふわっと宙に浮いたボールを蹴ると、男の子の足もとに一直線に飛んでいった。
「ナイスパス!」
「お兄ちゃん上手いな! 俺らと一緒にサッカーしようぜ!」
子どもたちのハートを一瞬で掴んじゃったよ! サッカーに誘われた亜実望くんだったが、私の顔を見ながら困ったように眉を下げる。
「誘ってくれたのは嬉しいけど、今はデート中だからなぁ」
私に遠慮しているみたい。そんな気遣いはいらないのに。
「いいよ。サッカーしておいで」
「本当か? ありがとな。じゃあちょっと行ってくる!」
行っておいでと背中を押すと、亜実望くんはイキイキとした顔で子どもたちの輪に加わった。
亜実望くん、楽しそうだなぁ。本当にスポーツが大好きなんだろうね。夢中になれることがあるって素敵だね。
