ポツ、ポツ、ポツ――
窓ガラスに雨粒がぶつかる。灰色の雲を眺めていると、ゴロゴロと嫌な音も聞こえてきた。

雷? 嫌だなぁ……。急いでカーテンを閉めて、窓から離れる。ついでに部屋中の電気を点けた。
そわそわした気持ちのままリビングを歩き回っていると、ダイニングテーブルに置いたお弁当が視界に入った。

「夕飯にはちょっと早いけど、もう食べちゃおうかな。そうすれば、気も紛れるよね」

ダイニングチェアに腰掛けて、パカッとお弁当箱の蓋を開く。その直後、「げっ」と顔をしかめてしまった。
お弁当箱に入っているのは、ピーマンの肉詰めとイワシのマリネ。

「うう……ピーマン嫌いなんだよな。魚もあんまり好きじゃないし……」

まさか嫌いなおかずがダブルで入っているとは思わなかった。作ってくれたのはありがたいけど、食べるのは抵抗があるなぁ……。

「お腹が空いたら食べられるよね。うん、後にしようっ」

そっとお弁当箱の蓋を閉じて、食べるのを後回しにする。お腹が空けば、嫌いなものでも食べたくなるよね、きっと。

「そうだ! 先にお風呂に入っちゃおう。その後に宿題して、イラストを描いて~」

今夜の計画を立てながら、私は脱衣所に向かった。



お風呂からあがって数学の宿題を終わらせた後は、液晶タブレットでイラストを描いていく。この間、WEB小説の表紙を描いてほしいって依頼が来ていたんだよね。締め切りはまだ先だけど、早めに進めておこう。

もくもくとイラストを描いていると、窓の外がピカッと光った。その数秒後、バリバリバリッと町ごと破壊しそうな大きな音が響く。

「きゃっ!」

咄嗟に耳を塞いで縮こまる。雷なんて勘弁してよ。よりによって、ひとりぼっちの夜に……。

雨はさっきよりも激しくなっている。大粒の雨が激しく窓ガラスにぶつかっていた。
恐怖で震えていると、あるアイディアを思いつく。

「そうだ! イヤホンで音楽を聴いていれば怖くないね」

我ながらナイスアイディアだ。さっそく引き出しからイヤホンを取り出して、スマホに接続した。
動画サイトを開いて、明るい曲を再生する。音を大きめにしていれば、雷の音だって気にならないよね。

イラストを描きつつ、音楽に耳を傾ける。ちょっとだけ恐怖が薄れてきたところで、またしてもバリバリバリッと大きな音が響いた。

「きゃああ!」

ダメだ。雷の音が大きすぎて聞こえちゃうよ。
イヤホンの音量を上げようとしたところで、ふっと部屋の灯りが消えた。

「え? 停電?」

部屋は真っ暗だし、パソコンも消えている。勘弁してよ……。
真っ暗な部屋で、頭を抱えながら縮こまる。

雷なんて大嫌い。怖いことも、悲しいことも、全部思い出してしまうから。

「もう、やだよぉ……」

恐怖のあまり、涙が滲んでくる。もう中学二年生なのに、雷で泣くなんてダサすぎる。
本当はもっとしっかりしないといけないのに……。

頭を抱えながらすすり泣いていた時、玄関のチャイムが鳴った。

「え? 誰?」

こんな嵐の夜に来客なんて……。震える心臓を押さえながら、真っ暗な廊下に出た。

パタン、パタン、パタンーー

足もとに気を付けながら玄関まで向かう。呼ばれてきちゃったけど、不審者だったらどうしよう。
ビクビクしながらドアの覗き穴で来客者を確認しようとした時、バリバリバリッと雷の音が響いた。

「きゃああ!」
「育ちゃん! 大丈夫!?」

この声は、天音くんだ!