昼休み。購買にパンを買いに行こうとした時、ぐいっと天音くんに腕を掴まれた。
「育ちゃん、一緒にご飯食べよ! 育ちゃんのためにお弁当を用意したんだ」
巾着袋に入ったお弁当を見せながら、にこにこと微笑む天音くん。まさかお弁当まで用意してくれるとは思わなかった。
「いいの? もらっちゃって」
「うん! 育ちゃんに食べてもらいたくて、昨日の夜にみんなで作ったんだよ。遊くん特製のから揚げと、桜エビとほうれん草の和え物、出汁巻き玉子、それとふりかけご飯!」
食育男子が、せっせとお弁当作りをしている姿を想像すると微笑ましくなってくる。小競り合いをしながらも、一生懸命作ってくれたんだろうなぁ。みんなのご厚意をムダにするわけにはいかない。
「ありがとう!」
お弁当の入った巾着袋を受け取ると、天音くんは嬉しそうに微笑んだ。
そんな中、クラスメイトが天音くんの周りに集まってくる。
「藤室くん、私たちと一緒にお昼食べよう」
「前の学校のお話聞かせて~」
「おい、女子は引っ込んでろよ。藤室、俺らと学食行こうぜ。美味いメニューを教えてやる」
わあ、天音くん、大人気だ……。女子も男子も、天音くんを取り合っているよ。
これは私が遠慮した方が良いのかもしれない。天音くんとは家も席もご近所なんだし、昼休みくらいは他の子に譲ってあげないとダメだよね。
「天音くん、みんなと食べておいで」
ひとりでお昼を食べるのは慣れっこだ。花梨ちゃんは吹奏楽部の昼練があるから、昼休みはいつもひとりだった。
いまさら寂しいなんて思わない。いつも購買でパンを買って、教室で食べて、残り時間は絵を描いて過ごしているんだ。今日も同じように過ごせばいい。
遠慮したものの、天音くんは不思議そうに首をかしげる。
「なんで? 僕は育ちゃんとご飯食べるよ」
当然のことのように言う天音くん。他の子からのお誘いには、一切なびいていない。
その発言を聞いたクラスメイトは、天音くんではなく私に不満をぶつけてきた。
「育ちゃんばっかりズルイ。私たちも藤室くんとお話したいのに」
「来栖、ちょっとは遠慮しろよ」
強い口調で非難されて、肩身が狭くなる。
そうだよね、みんなの言うことはもっともだよ。私が天音くんを独占していたらダメだよね。
天音くんをみんなに譲って教室から出ようとすると、腕を掴まれて逃亡を阻まれた。驚いていると、天音くんは一歩前に出て、クラスメイトと向き合った。
「僕と仲良くしようとしてくれてありがとう。その気持ちは、すごく嬉しいよ。でもね、僕は育ちゃんとご飯を食べるって決めているんだ。だから、ごめんね」
天使の微笑みを浮かべながら、両手を合わせる天音くん。その愛らしい仕草を見て、クラスメイトたちは「ぐはっ」と胸を押さえ始めた。
「か、可愛すぎる」
「天使か? 天使なのか?」
「むしろ小悪魔なんじゃ……」
またしてもクラスメイトのハートを射止めてしまったみたい。誘ってくれたことへのお礼を伝えつつも、自分の意見を通しているのもさすがだなぁ。
私を責めていたクラスメイトも、「藤室くんがそう言うなら」と諦めてくれた。天音くんの塩対応ならぬ、お砂糖対応に助けられたみたい。
「育ちゃん、一緒にご飯食べよ! 育ちゃんのためにお弁当を用意したんだ」
巾着袋に入ったお弁当を見せながら、にこにこと微笑む天音くん。まさかお弁当まで用意してくれるとは思わなかった。
「いいの? もらっちゃって」
「うん! 育ちゃんに食べてもらいたくて、昨日の夜にみんなで作ったんだよ。遊くん特製のから揚げと、桜エビとほうれん草の和え物、出汁巻き玉子、それとふりかけご飯!」
食育男子が、せっせとお弁当作りをしている姿を想像すると微笑ましくなってくる。小競り合いをしながらも、一生懸命作ってくれたんだろうなぁ。みんなのご厚意をムダにするわけにはいかない。
「ありがとう!」
お弁当の入った巾着袋を受け取ると、天音くんは嬉しそうに微笑んだ。
そんな中、クラスメイトが天音くんの周りに集まってくる。
「藤室くん、私たちと一緒にお昼食べよう」
「前の学校のお話聞かせて~」
「おい、女子は引っ込んでろよ。藤室、俺らと学食行こうぜ。美味いメニューを教えてやる」
わあ、天音くん、大人気だ……。女子も男子も、天音くんを取り合っているよ。
これは私が遠慮した方が良いのかもしれない。天音くんとは家も席もご近所なんだし、昼休みくらいは他の子に譲ってあげないとダメだよね。
「天音くん、みんなと食べておいで」
ひとりでお昼を食べるのは慣れっこだ。花梨ちゃんは吹奏楽部の昼練があるから、昼休みはいつもひとりだった。
いまさら寂しいなんて思わない。いつも購買でパンを買って、教室で食べて、残り時間は絵を描いて過ごしているんだ。今日も同じように過ごせばいい。
遠慮したものの、天音くんは不思議そうに首をかしげる。
「なんで? 僕は育ちゃんとご飯食べるよ」
当然のことのように言う天音くん。他の子からのお誘いには、一切なびいていない。
その発言を聞いたクラスメイトは、天音くんではなく私に不満をぶつけてきた。
「育ちゃんばっかりズルイ。私たちも藤室くんとお話したいのに」
「来栖、ちょっとは遠慮しろよ」
強い口調で非難されて、肩身が狭くなる。
そうだよね、みんなの言うことはもっともだよ。私が天音くんを独占していたらダメだよね。
天音くんをみんなに譲って教室から出ようとすると、腕を掴まれて逃亡を阻まれた。驚いていると、天音くんは一歩前に出て、クラスメイトと向き合った。
「僕と仲良くしようとしてくれてありがとう。その気持ちは、すごく嬉しいよ。でもね、僕は育ちゃんとご飯を食べるって決めているんだ。だから、ごめんね」
天使の微笑みを浮かべながら、両手を合わせる天音くん。その愛らしい仕草を見て、クラスメイトたちは「ぐはっ」と胸を押さえ始めた。
「か、可愛すぎる」
「天使か? 天使なのか?」
「むしろ小悪魔なんじゃ……」
またしてもクラスメイトのハートを射止めてしまったみたい。誘ってくれたことへのお礼を伝えつつも、自分の意見を通しているのもさすがだなぁ。
私を責めていたクラスメイトも、「藤室くんがそう言うなら」と諦めてくれた。天音くんの塩対応ならぬ、お砂糖対応に助けられたみたい。
