後方のドアからC組の教室を覗き込むと、またしてもクラスメイトに囲まれている男子生徒がいた。金髪でピアスがバチバチについた男子。遊くんだ。

遊くんは、目つきの悪いヤンキー男子に囲まれていた。椅子に座って足を組んでいる遊くんと、ポケットに手を突っ込んだヤンキー男子たちが睨み合いをしている。

もしかして喧嘩? それはマズいよ~! ビクビクしながら様子を伺っていると、オールバックの男子が遊くんもとへ駆け寄った。

「獅子津さん、焼きそばパン、買ってきました」

焼きそばパンを献上する男子。そんな彼の後頭部を、遊くんはスパーンとハリセンで叩いた。

「そこは焼きそばパンじゃなくて、コロッケパンだろ! そんでどうして俺に献上してんだよ。お前が食え!」
「はいっ……むぐぐっ」

遊くんは焼きそばパンの袋を開けると、オールバックの男子の口に突っ込んだ。

「どうだ、美味いか?」
「うぐぐぐっ……んまいです!」
「そうか。ほら、追加のマヨネーズだ」

遊くんは鞄からマヨネーズを取り出すと、焼きそばパンにブチュブチュとかけ始める。
あーあ、あんなにたくさんかけたら、マヨネーズの味しかしないんじゃ……。
そんな地獄のような食事を目の当たりにしたヤンキー男子たちは、「ひぃ」と震え上がる。

「こ、怖え……」
「喧嘩売ったらマヨネーズまみれにされるぞ……」
「この人に逆らっちゃダメだ……」

遊くん、転校初日にしてヤンキー男子たちに恐怖を植え付けてしまったみたい。

「いい、い、育ちゃん、あの人とは関わっちゃダメだよ」

隣にいた花梨ちゃんが、真っ青な顔で私の手を引っ張る。

「う、うん、そうだね」

よし、何も見なかったことにしよう。そそくさと立ち去ろうとしたところで、遊くんと目があった。

「おう、育。お前も焼きそばパン」

聞き終わる前に、私は逃走した。