休み時間になると、天音くんの周りにクラスメイトが集まった。

「ねえねえ、藤室くんって、どこから転校してきたの?」
「どこから!? え、えーっと……北の方かな?」
「北海道とか?」
「そうそう! ホッカイドー」

クラスメイトは、天音くんの席をぐるりと囲んで質問攻めしている。その熱量に圧倒されて、私は花梨ちゃんの席まで避難してきた。

「藤室くん、大人気だね」

花梨ちゃんの言葉に、大きく頷く。

「格好良いし、性格も明るいから、あっという間にクラスの人気者になっちゃったね」

昨日まで一緒にいた天音くんが、急に遠い存在になってしまったようだ。クラスメイトと仲良くやれているのは良いことだけど、ちょっと寂しいような……。

「そういえばさ、B組とC組にも転校生が来たんだって」
「え? そうなの?」

花梨ちゃんから知らされてビックリする。まさか一日に何人も転校生が来るなんて。

ん? ちょっと待って。天音くんが転校してきたってことは、ほかの食育男子たちも……。いや、まさかね。さすがにそれは考えすぎか。

「せっかくだし、隣のクラスの転校生も見に行ってみる?」

うずうずした花梨ちゃんに誘われる。転校生に興味津々なのは、花梨ちゃんも同じみたい。

「うん、行ってみようか」

笑顔を浮かべながら頷くと、さっそく隣のクラスへ向かった。

B組のドアの影から中を覗き込むと、クラスメイトに囲まれている男の子がいた。
赤髪でキリっとした顔立ちの男の子。あれは亜実望くんだ。

亜実望くんの席の周りには、バスケ部やサッカー部の男の子たちが集まっている。耳を澄ませてみると、熱烈に勧誘する声が聞こえてきた。

「丹柏、バスケ部に入れよ。お前運動神経良いから、すぐにレギュラーになれるって」
「いや、サッカー部だ。お前がいれば、次の試合も勝てる」

他の男の子たちも「バレー部だ」「いや、柔道部だ」なんて部活の勧誘をしている。
亜実望くん、運動部の男の子たちに大人気だぁ。ぼんやり眺めていると、近くにいたB組の女の子が説明してくれた。

「うちのクラス、一時間目が体育だったんだけど、そこで丹柏くんが大活躍したんだよね。それで運動部の男子たちが丹柏くんを取り合っちゃって」
「な、なるほど」

熱烈な勧誘を受けている亜実望くんを遠くから眺めていると、不意に目が合う。すると亜実望くんは、ニカッと白い歯を見せて笑った。

「おーい、育! 元気か~」

ぶんぶんと手を振りながら声をかける亜実望くん。やめて、そんな大声で叫んだら目立っちゃうじゃん。ほら、運動部の男の子たちも私に注目しているよ……。

私は咄嗟にドアの陰に隠れる。これ以上、目立ちたくないよ。
そんな私の気も知らず、亜実望くんは「どうした?」と不思議そうに首を捻る。反応ができずにいると、ダッシュでこちらに近付いてきた。

「何してんだ、育」
「ひゃっ! 亜実望くん」

扉からひょっこり顔を出した亜実望くんにビックリする。花梨ちゃんも、驚いたように私たちの顔を交互に見ていた。

「育ちゃん、B組の転校生とも知り合いなの?」
「あ、うん。実はそうなんだ。亜実望くんもご近所さんで」

あははーっと乾いた笑いを浮かべながら説明する。亜実望くんはうっかり余計なことまで喋ってしまいそうだから、私から説明した方が良いよね。

「そうそう、育とはご近所さんだ」

亜実望くんもニカッと笑いながら話を合わせてくれた。とりあえず一安心と思っていたところで、亜実望くんが運動部の男の子たちに声をかけた。

「勧誘してくれたのは嬉しいんだけどさ、俺、育に飯を作らないといけないから、部活には入れないんだ。ごめんな」

ちょ、ちょっと亜実望くん!? その断り方はどうなの? 案の定、運動部の男の子たちはざわつき始める。

「飯作らないといけないって、どういうことだ?」
「一緒に飯食ってるってこと?」
「まさか同居?」

ほら~! 変な誤解されてるじゃん!

「ち、違うよ。亜実望くんちはレストランだから、放課後はキッチンを手伝わないといけないんだよね、ねっ?」

亜実望くんの肩をバシバシ叩きながら説明する。すると、亜実望くんも勢いに圧倒されながら頷いた。

「あ、ああ、そうだ。育はうちのレストランが気に入っているからな」

レストランのことを説明すると、運動部の男の子たちも「なんだ、そういうことか」と納得してくれた。
危ない、危ない。亜実望くんの言動にはヒヤヒヤさせられる。当の本人は、何もわかっていないようだけど。

「そういえば、C組には遊が転校してきているぞ。様子を見に行ったらどうだ?」
「遊くんも!?」

私はギョッと目を見開く。まさか三人揃って転校してくるなんて……。
遊くんの様子も気になる。ヤンキー風な身なりで、クラスに溶け込めているのかな?

「ちょっとC組も見て来るよ。行こう、花梨ちゃん」
「あ、待ってよ、育ちゃん~」

私はダッシュでC組に向かった。