若頭は拾い猫を甘やかしたい。

「は?」


だけど私がそう言葉にした途端、お兄さんの雰囲気がガラッと変わった。


凄く低い声で、周りの人が皆震えちゃ居そうなほどの圧を感じる。



「都は誰かに働かされてたわけ?」

「う、ん。」

「ちっ、クソ共が。」


さっきまでの優しい雰囲気とは打って変わって、今はまるでヤクザのような感じになっている。

だけどすぐにまた優しくなって、



「都。」


私の頬をそっと触って名前を呼んでくる。

誰かに名前を呼ばれて、こんなに嬉しい気持ちになるのは初めてかもしれない。



「なに?お兄さん。」


「俺は労働とかどうでもいい。ただただ勝手に都を拾って、これから優しく育てる。それだけ。」


「え、労働しなくていいの?」


「しなくていーよ。ただ可愛がられてればそれでいいよ。」




真っ直ぐ私の目を見つめてそう言うお兄さんの言葉に嘘はないように思える。


その瞬間、今までずっと堰き止めていた何かが外れる音がして一気に視界がぼやける。