「冬華は今、幸せ?」
「うん、もちろん。それに、わたしにとっては、今こうして、渚くんがわたしのこと、こんなに想ってくれていることが一番の幸せだよ」
想いや感情は不思議なもので、肌や距離で伝わることがある。
渚くんと目線が合えば胸が華やいだし、笑顔を見れば嬉しい気持ちになった。
「うわぁ、きれい!」
わたしはふと、足を止める。
見上げた大きな木を埋めつくすのは、紅葉に染まった葉っぱ。
満天の紅葉が、わたしたちのそばに落ちて、響いて、広がっていく。
まるで夜空に咲く花火のようだった。
「渚くん、記念に写真を撮ろう!」
「ああ。冬華、もう少しこっちに」
「うん」
葉が舞い落ちる音すら聞こえそうな静けさの中。
渚くんが掲げたスマホのインカメラで、今日の記念の一枚をパシャリ。
柔らかな沈黙が訪れた。
言葉はなくても、そこには確かなものが流れている。
必死に今を紡いで、今を感じながら。
そうして、またひとつ、もうひとつと思い出を重ねながら、わたしたちは歩んでいく。
――嬉しくて錯覚しそうになる。
こんな日々が、これからも続いていくと。
それなのに、渚くんが背負っていた宿命はあまりにも残酷なもので。
その瞬間、嬉しいと思った気持ちぜんぶが溶けて跡形もなくなってしまう。
きっかけは、冬を知らせる風がふわりと吹き抜けたことだった。
「あ……」
紅葉に染まった葉は、ひとつひとつが小さな誓いのようで。
ふわりと舞い上がり、漂い、そして新たな季節へと繋がっていく――その未来を伝えるように。
「な、渚くん……、身体が……っ!」
……思わず、息が止まる。
今まさにロスタイムが終わろうとしているからなのか、渚くんの身体は透け始めていた。
猫神祭りの時と同じように、彼の身体は消えかかっている。
いや、正確には今井くんの身体に戻ろうとしていた。
「冬華、ごめんな。ロスタイムは終わるみたいだ」
渚くんは笑っていた。
どこまでも優しく、幸せそうに笑っていた。
でも……わたしは笑えなかった。
次から次へと溢れていく涙は止まることがない。
そんなわたしを、渚くんは優しく抱きしめてくれた。
「今度こそ、これで……ロスタイムは最後だと思う」
「――嫌だ。嫌だ。嫌だよ。行かないで、渚くん!!」
どうしても、あの過去が顔を出す。
渚くんの死を目の当たりにした、あの日のあの瞬間が心を凍らせる。
「うん、もちろん。それに、わたしにとっては、今こうして、渚くんがわたしのこと、こんなに想ってくれていることが一番の幸せだよ」
想いや感情は不思議なもので、肌や距離で伝わることがある。
渚くんと目線が合えば胸が華やいだし、笑顔を見れば嬉しい気持ちになった。
「うわぁ、きれい!」
わたしはふと、足を止める。
見上げた大きな木を埋めつくすのは、紅葉に染まった葉っぱ。
満天の紅葉が、わたしたちのそばに落ちて、響いて、広がっていく。
まるで夜空に咲く花火のようだった。
「渚くん、記念に写真を撮ろう!」
「ああ。冬華、もう少しこっちに」
「うん」
葉が舞い落ちる音すら聞こえそうな静けさの中。
渚くんが掲げたスマホのインカメラで、今日の記念の一枚をパシャリ。
柔らかな沈黙が訪れた。
言葉はなくても、そこには確かなものが流れている。
必死に今を紡いで、今を感じながら。
そうして、またひとつ、もうひとつと思い出を重ねながら、わたしたちは歩んでいく。
――嬉しくて錯覚しそうになる。
こんな日々が、これからも続いていくと。
それなのに、渚くんが背負っていた宿命はあまりにも残酷なもので。
その瞬間、嬉しいと思った気持ちぜんぶが溶けて跡形もなくなってしまう。
きっかけは、冬を知らせる風がふわりと吹き抜けたことだった。
「あ……」
紅葉に染まった葉は、ひとつひとつが小さな誓いのようで。
ふわりと舞い上がり、漂い、そして新たな季節へと繋がっていく――その未来を伝えるように。
「な、渚くん……、身体が……っ!」
……思わず、息が止まる。
今まさにロスタイムが終わろうとしているからなのか、渚くんの身体は透け始めていた。
猫神祭りの時と同じように、彼の身体は消えかかっている。
いや、正確には今井くんの身体に戻ろうとしていた。
「冬華、ごめんな。ロスタイムは終わるみたいだ」
渚くんは笑っていた。
どこまでも優しく、幸せそうに笑っていた。
でも……わたしは笑えなかった。
次から次へと溢れていく涙は止まることがない。
そんなわたしを、渚くんは優しく抱きしめてくれた。
「今度こそ、これで……ロスタイムは最後だと思う」
「――嫌だ。嫌だ。嫌だよ。行かないで、渚くん!!」
どうしても、あの過去が顔を出す。
渚くんの死を目の当たりにした、あの日のあの瞬間が心を凍らせる。



