猫は、その恋に奇跡を全振りしたい



それから、わたしたちはたくさんの時間をともに過ごした。
二人で一緒に買ったメモ帳に、二人が幸せになれることを、片っ端から書いていった。
遊園地や水族館。
映画館や図書館。
行きたいところや気になったところは、ぜんぶ回った。
そうして、わたしたちはやりたいことを一つずつ、消化していった。

二人で声を出して笑う時間が、あとどれくらい続くだろう。
少しでも長く続くように、できることは――。

たくさんの幸せとともに、真新しい奇跡を連れてくること。
そう考えた11月下旬のその日、わたしたちは保護猫カフェに来ていた。
目的は、渚くんの誕生日を祝うことだ。

「みんな、かわいいねー」

気持ちが花咲く気分で、わたしは猫たちを見つめた。
猫部屋には、愛らしい猫たちがたくさんいる。

「……あれ?」

不意に、足元にふわりと温かな猫の身体が触れた。

「にゃー」

見仰いでくる子猫に、わたしは微笑みを返す。
猫の隣にしゃがみこむ。
そっと手を伸ばせば、猫は人懐っこい仕草で手のひらに小さな頭を押し付けてきた。

「ねえ、猫さん」

ふわふわの毛に包まれた頭を柔らかく撫でながら、わたしはささやく。

「どうしたら、このまま、渚くんと一緒にいられるのかな」

誰かを好きになることは素晴らしいことのはずなのに。
胸がドキドキして、頭がふわふわして、身体がぽかぽかになって、それはとても良いことのはずなのに。
それと同時に、胸が苦しくなるのは、別れが近いせいだろう。

「どうしたら、ロスタイムは永遠になるのかな」

大好きな人のことを考えるのは、とても楽しくて嬉しいことのはずなのに。
会いたいと思えば思うほど、泣きたくなってしまうのは、もうすぐ、彼がいなくなってしまうからだろう。

「にゃ……」

猫はもちろん、何にも答えない。
ただ、何かを伝えるように、じっと見つめていた。

「猫さん、ありがとう」

何だか、猫に励まされた気がして、わたしは両手を伸ばす。
そっと抱きしめると、切なくて苦しいままだった胸に、猫の柔らかな温もりが宿る。
猫の温かさに勇気をもらって、わたしは小さく深呼吸した。

(今日はわたしの中の好きが溢れて、渚くんのこと、まともに見れなかったけど……)

 高鳴る胸を抑えながら、渚くんをまっすぐに見上げる。

「わたしは今も昔も、渚くんのことが好き。今の渚くんは、わたしの手を離さないでね」
「ああ。約束するよ」

わたしたちは夢をなぞるように、指切りして約束した。
でも、その約束が決して叶わないのは知っている。
ロスタイムの終わりが近づいているから。

「改めて考えると、会いたい時にすぐに会えるって、すごいことなんだよね」
「ほんとにそうだな」

初めて出会った日。
あの日、感じた熱は、繋いだ手の体温は、今でもわたしの中を巡っている。