猫は、その恋に奇跡を全振りしたい

幸せ探しは、これが楽しそう、こっちも素敵だねと、あれこれと吟味するのがまた楽しい。
そんなふうにして、二人の時間は楽しく穏やかに過ぎていく。

「…………」

渚くんはやがて、わたしから夕焼けの空に視線を移す。
そして、ふと何かを考え込むようにわずかに眉を寄せた。

「渚くん、どうしたの?」
「いや……」

渚くんは目を落としながら、噛みしめるように答える。

「冬華とこうして、これからの話ができるのが嬉しい」

どこまでもまっすぐな笑顔に、わたしの心が揺れた。
胸が甘酸っぱいような色に染まる。

「クロム憑きの奇跡がなかったら、こんな日々はなかったんだ。冬華と一緒にいられて幸せだよ」
「わたしも幸せだよ」

渚くんの横顔を眺めながら、わたしはあの夢の出来事を思い出す。
あの日、渚くんと未来の小さな約束をした。

「わたしが君を知ろうとしなければ、誰も君を君だと気づいてくれなくなってしまう。そんなふうにして、本来の君は消えてしまうんじゃないかな」

わたしは夢の中で口にした言葉を、そのままなぞる。

「覚えている? 前にわたしが言ったこと」
「もちろん。ずっと覚えているよ」

わたしのささやきに、渚くんははにかんだ笑みを浮かべる。

「冬華。俺を見つけてくれてありがとう」

渚くんはその両腕で、わたしを優しく抱きしめてくれた。

これはきっと、奇跡なんだろう。

胸を満たす幸せな想いに、わたしは微笑む。
わたしは今、渚くんに二度目の初恋をしている。
これから先のことは分からない。
でも、わたしは気づいていた。
幸せになんて、ありふれていることを。
この世界を歩けば、どこでだって見つけられることを。
だから、これからもずっと、大切な人とともに歩いていきたい。

(小さなことでも、幸せを感じたら、どんなことでも特別な日になるから)

今日はその最初の日、とわたしはそっと表情を柔らかくした。

わたしたちが再び、巡り合った奇跡。
それは、この世界からの小さな祝福だった。