猫は、その恋に奇跡を全振りしたい



「井上先輩が、猫神様だったなんて……」

猫巡り部の部室を出た後、わたしは校門の前でぽつりとつぶやいた。

「ずっと会いたかった猫神様が、すぐ近くにいたなんて、何だか不思議な感じがする……」
「俺もだよ」

深くなる秋空の色を写し取った通学路に向かうその前に、渚くんは瞳をわずかに和ませる。

「猫巡り部の部長が、猫神様だったなんてびっくりだよ」

浮き立つ心のまま、わたしは渚くんの隣を並んで歩き出す。
いつもいつも、猫神様には驚かされてばかりだ。

「そうだ。たくさんの幸せ探しね。11月の終わりの渚くんの誕生日、二人で過ごしたらどうかって、井上先輩が言ってた」
「俺も、その方がいいかな」

うなずいた渚くんの瞳の真ん中に、自分の顔が映り込んでいる。
それだけのことが、とても嬉しかった。

「うーん。どこに行こうかな。渚くんはどこに行きたい?」
「冬華と一緒にいられるなら、どこでもいいよ」
「むっ。それだと決まらないよ……」

ふわりと優しくて和やかな空気が流れる。
渚くんと過ごす時間は、何よりも楽しかった。

「そうだ。渚くん、お母さんがね、猫をモチーフにしたスイーツ、おいしいって言ってくれたんだ。猫を飼うのはやっぱりダメみたいだけど……猫の話をしても嫌がられなくなったの」
「そうなんだね。良かった」

わたしの話を聞いた渚くんは屈託のない笑みを向ける。

「その日は、冬華にとって特別な日になったんだな」
「うん」

でも……今日、今、まさにこの瞬間だって特別な時だと、わたしはしみじみと噛みしめた。
その瞬間、花が開くように、胸の内に咲く想い。

(別れる時は……『また、明日』って言おう)

それはきっと、小さいけれど、大切な約束になると。
そんなことを思いながら、わたしは渚くんの話す声を心地よく聞いた。