放課後、わたしと渚くんは残された時間をどう過ごすのか、話し合った。
その結果、わたしたちは残された時間の中で、たくさんの幸せを見つけることにした。

考える限りの楽しいことを見つける。
幸せを見つけても、何も変わらないかもしれない。
楽しい時間を過ごしても、無意味かもしれない。
それでも何か残したくて、わたしは必死だった。

渚くんに伝えたい想いはたくさんある。
これから時を一緒に過ごすたびに、それは増えていくのだろう。
一言に集約できない気持ちは、限りがある時間の中でぜんぶ伝えきれるだろうか。

「にゃー? 安東くん、桐谷さん、何かあったのかにゃん?」

決意を込めて、猫巡り部の部室に足を運ぶと、出迎えた井上先輩は目をぱちくりと何度も瞬いてみせる。

「その……、やりたいことを見つけたんです……」
「ふむふむ。なるほど、なるほど。猫巡り部の活動を、さらに活発化させる方法が見つかったというわけだね!」

わたしが決意を口にすると、井上先輩が自分のことのようにうなずいた。
一通り盛り上がった井上先輩は、くるりと向き直る。

「で、何を悩んでいるのかな?」

唐突な言葉に、胸がざわざわした。
井上先輩はいつも、こうして重い空気を和らげてくれる。

「実は……」

わたしはそう前置きして、クロム憑きと猫神様の奇跡のことを打ち明けた。

「むむぅ、これは重大だぞ。知らぬ間に、猫巡り部の部員が一人消えてしまっていたとは!」

わたしの話を聞いて、井上先輩は目を丸くする。

「つまり、一ヶ月後には鹿下くん――いや、今井くんの代わりに、今度は安東くんが消えてしまうかもしれないわけだね」
「……はい」

迷っているわたしを見透かしたように、井上先輩は言う。

「ふむふむ。たくさんの幸せを見つけること。どう足掻いたとしても、安東くんのロスタイムの期限は変わらないかもしれない。でも、何か変わる可能性があるなら、それに賭けてみるのも手だぞ」
「でも……」

わたしは言い淀む。

どこにも行けないものがある。
「行かないで」とどんなに叫んでも、届かない想いがある。
どこまでも停滞している。
その想いは未来に繋がることはなく、思い出の中で寒さに震えるように身を縮めていた。