(このまま、渚くんたちがいる世界がほしい)

強烈に思う。
都合のいい世界がほしい、と。
渚くんがいて、今井くんがいて、みんながいる世界。
過酷な現実に抗うように。
渚くんとの思い出にすがるように、わたしは必死に希望を求める。

また、失うのが怖かったから。
また、渚くんが離れていくのが――怖かったから。

肩を、震わす。
止めどなく溢れてくるのは涙ではなく、恐怖で――。

「冬華」

刹那、そんなわたしを抱きしめたのは渚くんだった。
温もりが感じられる。
渚くんの体温が、彼の生きている証がそこにあった。

「麻人はこうなることを分かっていた。だから、あの時、猫神様に願いを告げようとしたんだ」
「願い?」

渚くんの言葉に、わたしは思わず、聞き返してしまう。

「冬華だけは、俺たちのことを覚えていてくれますようにって……」
「あ……」

今井くんの願い事。
そのおかげで、わたしは今も、『今井くんがいなくなった理由』を覚えていられたんだ。

「冬華、あの時、言えなかった言葉を言うよ」

熱を放っている声音が、どこか安心させてくれる。
こうして、渚くんの存在を感じているだけでも、安らかな気持ちにさせてくれた。

「冬華の幸せが、俺の幸せだ。そのためなら、俺は全力で生きてみせる」

悩んでもがいて見つけた先で、わたしの胸がとくんと揺れた。

「俺は冬華が好きだ。ずっと、俺のすべては冬華だった」
「……っ。わたしも、渚くんのことが大好き。渚くんがすべてだったよ」

視界が揺れる。
そう叫んだ途端、身体の底から湧き上がるように涙が出て止まらなかった。
溢れ出す気持ちに、彼以外の景色がぜんぶ、涙で押し流されてしまう。
ただひたすらに、愛しい彼を求め続ける。
その存在を確かめ続ける。

秋の終わり。
わたしたちはこの日、恋人同士になった――。