猫は、その恋に奇跡を全振りしたい

「桐谷。月果て病の奇跡、クロム憑きのロスタイムは永遠じゃない。未練を晴らせなかった場合も、いつか必ず終わりがくる」

この先に希望はなく、ただ終わりだけが横たわっている。
今井くんはそう言いたげに語り続けた。

「俺が宿主になって、安東を一時的に生き返させる。だけど、これもロスタイムの終わりを、少し先延ばしにしただけだ。恐らく、安東の魂は一ヶ月後くらいには俺の中から消える」

軽い調子で言ってから、今井くんは少しだけバツが悪そうにする。

「終わりが分かっている、ひとときの時間だ。その日を迎えた時、おまえは必ず、後悔することになるぞ」
「うん、そうだね。きっと、後悔すると思う……。でも、このまま、さよならする方が絶対に後悔するよ。だから、わたしは少しでも長く、渚くんのそばにいたい!」

タイムリミットは一ヶ月。
死へのカウントダウン。

12月になれば、もう渚くんはいないのだろう。

それでも、どれだけ遠く離れても、渚くんの心とともにありたいと願う。
今、伝えなければ、この先、伝えることはできないかもしれない。
思わず、渚くんに身を寄せると、今井くんは呆れたように笑った。

「はあっ……。桐谷は、相変わらずだな。安東。桐谷のこと、めいっぱい幸せにしろよ」

わたしはその言葉に首を横に振ると、想いを込めるように彼の名を呼んだ。

「今井くん、それは違うよ。今井くんも、わたしを幸せにして」
「はあっ? なんだよ、それ?」

今井くんは不思議そうに首をかしげる。
だけど、あれこれ考え込まず、ただ伝えたいことを考えたら、その言葉しか浮かばなかった。

「今井くんは、今の渚くんの半身でもあるんだよね? だったら、わたしはどちらも選ぶよ。だって、どちらも渚くんだから」

せめて――想いは、素直に。
だから、次に繋げるために、未来への足掛かりを残す。
ほんの少しの行動が、未来を変えることができるって信じているから。

「それに、わたしが恋を始めたいと思ったのは、今の渚くんだったから」

胸の内に、そっと付け足す。
真実を知ってもまだ、どうしようもなく、わたしは『今の渚くん』に恋をしている。

「今井くん、いっぱいいっぱい、わがままばかり言ってごめんなさい。でも、ごめんね。もう一つ、わがままを聞いてほしいの」

絶対に『彼』の全てを包み込めるだなんて、言い切る自信はない。
あるとすれば、ただひとつだけ。

「お願いします。わたしを幸せにしてください」

終わりを迎える奇跡のその先に、三人で歩める新しい道が続いていると、わたしは信じているから。
願いを込めた願掛けは、わずかでも熱が届いていますように。

「……また、わけの分からないことを。……って、あー、くそ……、仕方ないな!」

わたしたちを見守っているだけ、というのは難しそうだ。
頭を抱えていた今井くんはやがて、そう察したみたい。