それは渚くんを失ったショックから立ち直れなかったわたしの心に唯一、舞い降りた救いの光だった。
だって、この夢を見続ける限り、わたしは渚くんと永遠の別れをしなくてもいいのだから。
きっと、悲しみに追いつかれると、わたしは未来を歩いていけなくなる。
(手を握りしめる力の強さも、痛みとして思い出すよりも、温もりとして思い出したいから)
渚くんがいた世界は、あの夢の世界のように鮮やかだった。
「二人で一緒に見た海、きれいだったな……」
夢を見るのは自由だ。
記憶の向こうの彼が証明しているように、夢には不思議な現象が起こる。
夢の舞台は、学校の屋上だったり、海だったりと様々だ。
登場人物は、わたしと渚くんに似た男の子。
そして、たまに不思議な猫がいる。
毎日、毎日、同じ夢を見続けたせいで、同じ思考が頭を巡る。
(彼は誰なのかな?)
渚くんに似た男の子。
わたしの夢に現れた渚くんに似た男の子は、本物の渚くんのように、屈託のない笑顔で笑っていた。
今日になれば分かるって言ってたけど、今はまだ、何も分からない。
学校に行ったら、何か分かるのかな。
逸る気持ちを抑えて。
急いで支度して、鞄を持って玄関に向かう。
こうして、夢の中で、渚くんに似た男の子に出会っても意味はないかもしれない。
夢で約束したことは、全て無意味かもしれない。
それでも、わたしはいいと思った。
夢の中だけでも、渚くんを失った悲しみを忘れられるなら。
それに今日、学校に行く理由ができたのだから。
同じ夢を見ることは、決して無駄なことではない。
そうすることで、渚くんがもういない現実が帳消しになる気がして。
「行ってきます」
そう告げても、共働きの両親は今日も家にいない。
ご飯は、いつも冷蔵庫に入っている作り置きだ。
夕方になれば、お母さんが家に帰ってくるけれど、それまでは一人だ。
幼い頃はずっと一人でいるのが嫌で、いつも渚くんの家にお世話になっていた。
あの頃は渚くんと過ごす日々が楽しくて、両親がいなくて寂しいと感じる暇さえなかった。
それなのに……今は……。
当たり前が当たり前じゃないと気づくのは、いつもそうなってからで。
いつだって、そこにあったのに気づかなかった。
いつも一緒にいたから。
(渚くんがいなくなってしまった世界は、こんなにも色褪せてみえる)
渚くんがいないと息の仕方も分からない。
置き去りの寂しさを歌っているみたいに、花瓶に添えてある花々がふわりと揺れた。
だって、この夢を見続ける限り、わたしは渚くんと永遠の別れをしなくてもいいのだから。
きっと、悲しみに追いつかれると、わたしは未来を歩いていけなくなる。
(手を握りしめる力の強さも、痛みとして思い出すよりも、温もりとして思い出したいから)
渚くんがいた世界は、あの夢の世界のように鮮やかだった。
「二人で一緒に見た海、きれいだったな……」
夢を見るのは自由だ。
記憶の向こうの彼が証明しているように、夢には不思議な現象が起こる。
夢の舞台は、学校の屋上だったり、海だったりと様々だ。
登場人物は、わたしと渚くんに似た男の子。
そして、たまに不思議な猫がいる。
毎日、毎日、同じ夢を見続けたせいで、同じ思考が頭を巡る。
(彼は誰なのかな?)
渚くんに似た男の子。
わたしの夢に現れた渚くんに似た男の子は、本物の渚くんのように、屈託のない笑顔で笑っていた。
今日になれば分かるって言ってたけど、今はまだ、何も分からない。
学校に行ったら、何か分かるのかな。
逸る気持ちを抑えて。
急いで支度して、鞄を持って玄関に向かう。
こうして、夢の中で、渚くんに似た男の子に出会っても意味はないかもしれない。
夢で約束したことは、全て無意味かもしれない。
それでも、わたしはいいと思った。
夢の中だけでも、渚くんを失った悲しみを忘れられるなら。
それに今日、学校に行く理由ができたのだから。
同じ夢を見ることは、決して無駄なことではない。
そうすることで、渚くんがもういない現実が帳消しになる気がして。
「行ってきます」
そう告げても、共働きの両親は今日も家にいない。
ご飯は、いつも冷蔵庫に入っている作り置きだ。
夕方になれば、お母さんが家に帰ってくるけれど、それまでは一人だ。
幼い頃はずっと一人でいるのが嫌で、いつも渚くんの家にお世話になっていた。
あの頃は渚くんと過ごす日々が楽しくて、両親がいなくて寂しいと感じる暇さえなかった。
それなのに……今は……。
当たり前が当たり前じゃないと気づくのは、いつもそうなってからで。
いつだって、そこにあったのに気づかなかった。
いつも一緒にいたから。
(渚くんがいなくなってしまった世界は、こんなにも色褪せてみえる)
渚くんがいないと息の仕方も分からない。
置き去りの寂しさを歌っているみたいに、花瓶に添えてある花々がふわりと揺れた。



