猫は、その恋に奇跡を全振りしたい

「なんだよ、それ。俺は遠慮なんてしていないぞ」
「そんなことない。すごく遠慮しているもん。過去に怯えるより、明日に目を向けたらいいと思うよ」
「それ、そのまま、おまえに返すよ」

顔がほころぶのを止められない。
楽しそうに笑うわたしを見て、鹿下くんもおかしそうに笑った。
もはや、先程までの険悪な雰囲気はない。
むしろ、もっと心の奥から、本音をぶつけ合いたいと思ってしまう。

「桐谷。俺の父さんが、保護猫カフェを経営している。猫を飼いたいなら、いつでも相談に乗るからな」
「……うん、ありがとう」

……不思議だ。
自分の気持ち次第で、鹿下くんへの見方は変わる。
わたしは衝撃にも近い気持ちを抱いていた。

「前に当てつけみたいに言ってごめんな」

そう言い終えると、鹿下くんは気まずそうに立ち去っていく。
その後ろ姿を呆然と見送りながら、わたしはぽつりとつぶやいた。

「……鹿下くん、いい人かも」
「ああ」

わたしの言葉に、渚くんは嬉しそうだ。

「渚くんの言うとおりだ。鹿下くん、いい人だった」

わたしは今までの自分に、強い引け目を感じる。
どうして、今まで気づかなかったんだろう。
みんな、違う。
だけど、みんな、同じ。
わたしが渚くんのことを考えているように、鹿下くんも今井くんのことを考えている。
それなのに、わたしはすべてを決めつけて、鹿下くんの気持ちをないがしろにしていた。

(鹿下くん、ほんとにごめんなさい)

変わりたいと思った。
今まで気づけなかったことに気づく勇気がほしい。
もっと心の奥から、大切な人たちと繋がりたいから。
苦手だと思ってた鹿下くんのこと、好きになれた。
それだけで、今日はすごくいい日だ。

「渚くん。わたし、お父さんとお母さんを説得する! そして、鹿下くんに、相談に乗ってもらいたい!」
「ああ。冬華なら、絶対にできるよ」

なんでだろう。
渚くんに念押ししてもらった後は、いつも心に光が灯るみたい。
無理だと思うことでも、できるようになる感じがする。

「その時は、渚くんも一緒に相談に乗ってほしいな」
「いつでも力になるよ」
「うん。ありがとう」

渚くんがうなずいてくれてよかった。
嬉しさで、胸が否応なしに高鳴る。

(渚くんは、わたしの希望だから)

渚くんと一緒に笑った後は、心がキラキラするんだ。
だから、これからも、わたしの隣で笑ってほしい。