その日の放課後。 
わたしたち、猫巡り部は、動物愛護センターを訪れていた。
目的はミルちゃんの最期を看取るためだ。
ケージにいたミルちゃんはぐったりしていた。

「ミルちゃん……」

井上先輩が声をかけても、反応はない。
荒い息を吐いている。
死期が迫っているのだろうか。
わたしは焦ったようにケージに駆け寄った。

「ミルちゃん。わたし、冬華っていうの。どうしても、あなたに会いたかったんだ」

せいいっぱいの思いの丈をぶつける。

「わたし……わたし……」

もっといっぱい伝えたい気持ちがあるのに、息が詰まってうまく声が出ない。
すると、自分の死期が近いことを悟ったのだろうか。
もどかしさに眉を寄せるわたしを見て、ミルちゃんは僅かに目を細めた。

どうしたらいいんだろう。
この子は、もうすぐいなくなる。
あの日の渚くんのように。

それは思い出すと後悔だらけで、何もできなかったという現実が襲ってくる。
だけど、絶望の気持ちは――、

「冬華」

ぎゅっと握られた、渚くんの手の温もりによって霧散した。

「大丈夫だよ」
「……うん」

――ダメだ。
ミルちゃんを不安にさせることをしたらダメだ。
しっかりしなくちゃ。
渚くんがそばにいる。
だから、大丈夫だ。
わたしは深呼吸をするような間を空けて、言葉を紡いだ。

「わたしね、ミルちゃんの家族になりたいの」

わたしは猫好きだ。
だけど、お母さんが猫嫌いで、今まで飼うことができなかった。
でも、わたしはミルちゃんとこれからも一緒にいたい。
その想いに嘘をつくことはできなくて――。

「これからずっと、ミルちゃんと一緒に過ごしたい。だから、わたしと家族になってください」

わたしはミルちゃんに対して、ぺこりと頭を下げた。
もし、この状況を乗り越えられたら、星に願わなくたっていい。
無理に繋ごうとしなくても、ミルちゃんの迷惑にならないタイミングでもう一度、伝えられる。
……自分の言葉で、届けられる日がやってくる。
もうおもんぱかって踏みとどまり、遠慮して一歩引くような、臆病な心に悩み惑わせたくなかった。