猫は、その恋に奇跡を全振りしたい



 その日の夜、幸せを運ぶように、いつもの夢を見ていた。

夢魂の力の奇跡。

見上げた空を埋め尽くすのは真っ青な空。

「あのね、渚くん。小学校に入学したばかりの頃、お父さんとお母さんが展望台のある高台に連れてきてくれたことがあるの」

声にした瞬間、さっと何かが吹き抜けた気がした。
まるで、その熱の置き場所を教えるように。
わたしと渚くんは、海と空の境目が分からないほど、青い世界を一望できる展望台にいた。

「この場所みたいに、晴れた日ははるか遠くに美しく地平線を見ることができてね。世界の奇跡を間近で見ているようだった」

そう前置きして、わたしはとつとつと語る。

「お父さんもお母さんも忙しくて、それまでは家族そろってお出かけなんてなかった。だから、余計に嬉しくて……」

わたしは微笑んで、全ての感情をその一言に込める。

「きっと一生、忘れない」

言葉にすれば、胸の内に生じた衝撃が高鳴る鼓動とともに、次第に温かなものに変わっていく。

「思い出って、特別なんだ。大切な人と過ごした日々の記録だから」

口を開くたび、心の奥底にあった気持ちが溢れ出して止まらない。

「わたし、今の渚くんのこと、もっと知りたい。わたしの知らない思い出を教えてほしい」

夢の世界では、わたしは渚くんに思ったことを言える。
意識しないと、うまく話せない現実が嘘みたいだ。

「うーん、そうだな。ベルと再会した時のことは話してないよな?」
「うん」

渚くんが話し始めると、わたしはわくわくと身を乗り出した。
その瞬間、一ヶ月前に置き忘れた渚くんの家の匂いがふわっと香る。