「っ、目を覚ましたか」
(良かった、無事で。でも、まだ顔が赤い。今日はこのまま、帰るべきだ。俺が迎えを呼ぼう。彼女にこれ以上、負担させるわけにはいかないからな)
明らかに動いてる口と伝わってくる彼の言葉の数が違う。というか、彼の口が閉ざされた後も声が聞こえる。
な、何ーー?
これ……どういうこと?
「村崎。帰れ」
(学校の近くに、村崎の兄がいる病院がある。知ってる病院の方が、彼女も安心するだろ。家に送り届ける前に寄らせよう。食事はーー体調も悪そうだし、軽めの物を用意してもらおう)
「……え?」
遅れて聞こえる声。多すぎる情報量に、頭がこんがらがって固まっていると、養護教諭が「はぁ」とため息を吐いた。
「緑谷くん、言葉が足りないわよ。いきなり帰れ、なんて言われたらびっくりするでしょう?」
(村崎さんに対しては、ぶっきらぼうね。まぁ、思春期真っ只中の男の子だし、同級生の女の子と話す時はこんなものかしら)
「へ?」
先生には、彼が『帰れ』と言ったことしか聞こえないの?
それに、先生が口を閉ざした後も声が聞こえる。緑谷くんをからかうような内容。でも、彼は何も反応しないーーもしかして、この声って私にしか聞こえてない?
私に聞こえてるこの声ってーーまさか。

