ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 せっかく愁さんと想いが通じ合ったのに。
 なかなか会えない日々を乗り越えて、やっと今日こうして向き合えたのに。
 あとたった一週間しか、一緒にいられないなんて。

 もっと早く言ってほしかった。
 突然の別れが決まっていたのなら、その不安を、一緒に分け合いたかった。

 私はまだ学生で、愁さんほど人生経験もないし、頼りないかもしれない。
 それでも、彼の大事な決断を、一緒に考えたかった。

 愁さんは少しだけ目を伏せ、それからゆっくりと私を見つめた。

「……そんな顔しないで」

 気づけば、愁さんの手が私の頬に添えられていた。
 指先が優しく触れる。温かいのに、なぜか涙がこぼれそうになる。
 そう言いながら、愁さんの顔がゆっくりと近づいてくる。

「……ん」

 もう一度、唇がそっと重なった。
 深くはなく、ただ触れるだけのキス。
 だけど、それだけで、愁さんの気持ちが伝わってくる気がした。

「……大丈夫」

 唇が離れた後、愁さんは静かに言った。

「僕の気持ちは絶対に離れたりしない」

 その言葉が、心の奥にしみこんでいく。
 愁さんがフランスへ行く。
 それは、私たちにとって大きな変化かもしれない。
 だけど、このキスが、愁さんの気持ちのすべてを物語っている気がした。
 私は、彼を信じたいと思った。

「別れ話じゃなくてよかった……」

 ほっとしたように呟くと、愁さんはくすっと笑った。
 
「そんなわけないだろう? できれば連れて行きたいくらいだよ。……でも、天音さんは自分の夢に向かって頑張っているし、僕はそれを応援したい」

 そう言って、そっと頭を撫でられる。