ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 私は玄関のドアを開け、冷たい夜の空気を吸い込んだ。
 見上げた空には、冬の星が瞬いている。
 この夜に、少しだけでも会える。
 それだけで、心が温かくなる気がした。
  
 家を出て少し歩いたところに、愁さんの車が停まっていた。
 車のヘッドライトが淡く光を落としている。
 助手席のドアを開けると、暖房の効いた車内のぬくもりが私を包み込んだ。
 
「お疲れさま。メリークリスマス」

 運転席から穏やかに微笑む愁さんの顔を見た瞬間、今日までの忙しさや疲れがじんわりと和らぐのを感じた。

「メリークリスマス……。もう、やっと会えましたね」
 
 自然とこぼれた言葉に、愁さんは小さく笑う。

「そうだね。今日は、少しだけでも一緒にいられてよかった」

 そう言って、車はゆっくりと発進した。

 付き合って初めてのクリスマス。
 本当なら昼間から一緒に過ごしたかったけれど、お互い忙しくて、こうして会えるだけでも十分だと思うことにした。

「どこ行くんですか?」
「少しドライブしよう。落ち着いて話せる場所がいいと思って」

 私たちの家も、お互いの店も、ゆっくり過ごせるような場所ではない。
 この時期はどこのお店も混んでいるし、予約なんて取れるはずもない。
 だから、ひと気のない駐車場に車を停めるのは、ある意味、必然だったのかもしれない。