ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 背後から響いたお父さんの声に、思わずビクリと肩をすくめた。
 振り返ると、リビングの床で大の字になっていたお父さんが、半分寝ぼけながらも私を見ている。かなり疲れているはずなのに、こういうときだけ目ざといんだから……。

「何を言っているの?」

 呆れたようにお母さんが口を挟む。

「お父さんが天音を店でこき使わなければ、今日くらい出かけられたのよ? 友達に少し会うくらいいいでしょう?」

「むぐ……」

 お父さんが押し黙る。
 さすがのお母さんの言葉には、反論できないらしい。

(よし、このまま行ける!)

 そう思った矢先、お父さんが急に顔をしかめた。

「まさか、友達って……彼氏でもできたんじゃあるまいな?」

 ぎくっ。
 動揺が顔に出る前に、何とか平静を装う。
 どう言おうか迷っていると、お父さんが起き上がって言った。

「……今度、連れてきなさい」
「えっ?」

 思わず変な声が出た。

「俺のケーキを食わせてやる!」
「ほ、本当?」

 思わず前のめりになる。
 お父さんは、相手が愁さんだって知らないはずだけど……。

「男に二言はない!」
「よかったわね、天音」

 事情を知っているお母さんが、静かに微笑む。
 私は何度も頷いた。

 愁さんに、お父さんのケーキを食べてもらえる──!
 ただそれだけで、私たちの関係を認めてもらえたようで嬉しくなった。

「行ってきます!」