ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 当日は店頭販売に駆り出された。
 予約のお客様が半分以上なので、手渡すだけで済む分、気は楽だった。
 
 当然、愁さんもお店が忙しくて、なかなか会えなかった。
 けれど、会えない時間が増えれば増えるほど、また会えるその日の喜びが、胸の中で少しずつ育っていくようだった。
 
 ようやく閉店時間になり、そのあと私はすぐに着替えを済ませた。
 お父さんの店を手伝うのも慣れてはいるけれど、さすがに今日は忙しすぎて、足が棒のようになっている。
 
 でもほんの少しの時間だけれど、愁さんに会えると思うと、疲れなんて吹き飛んでしまう。

 そっと玄関へ向かおうとしたとき——。

「こんな夜遅くにどこへ行く?」