ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

 食べ終えて店を出ると、夜の風がそっと頬を撫でた。
 歩きながら隣を歩く愁さんの横顔を盗み見る。

 今日は楽しかった。
 最後の報酬を味わいながら、初めてのモンブランのことを思い出して——なんだか感慨深い気持ちになった。
 そんな余韻に浸っていたとき、愁さんが口を開く。

「……クリスマスが終わるまでは、会えないと思う」

 その言葉に、少しだけ胸が痛んだ。
 わかってはいたけれど、改めて言われると寂しさが募る。
 クリスマスシーズンは、パティスリーにとって一年で最も忙しい時期。
 愁さんがどれだけ大変か、私もよく知っている。

 だからこそ、仕方がない。

「……ですよね。頑張ってください」
 
 精一杯、明るく返す。
 でも、その瞬間、愁さんがふっと口元を緩めた。

「クリスマスイブ」
 
 歩みを止め、私を真っ直ぐに見る。

「店が終わったら、数分だけでも会いたい」
「あ……。私もですっ!」

 驚きと喜びが入り混じって、思わず弾むような声が出た。
 だって、本当にもう年明けまで会えないかもしれないと思っていたのに。
 愁さんは、そんな私の反応に満足そうに微笑んで、優しく髪を撫でてくれる。

「じゃあ、約束」

 そう言って差し出された小指に、私もそっと指を絡めた。
 クリスマスイブ。
 ほんの数分でも、一緒に過ごせるなら、それだけで特別な夜になる。
 冷たい風が吹いたけれど、不思議と寒さは感じなかった。